マングースの臭いを探す探索犬のトゥイ=8月、沖縄県国頭村
鹿児島県の奄美大島で特定外来生物マングースの根絶が宣言された。かつて数多くの研究者が「根絶は不可能」との見方をしていた中、実現に至ったのは捕獲専門チーム「奄美マングースバスターズ」の貢献が大きい。その軌跡を追い、マングースの教訓を考える。(連載「マングース根絶 奄美の挑戦」㊥より)
「カモン、トゥイ」。8月下旬、沖縄県国頭村の山中で捕獲専門チーム「やんばるマングースバスターズ」の山下亮さん(52)が指示を出すと、探索犬のトゥイが勢いよく走りだした。山下さんは「マングースの臭いを探している」と説明した。
埼玉県出身の山下さんはニュージーランドで外来種対策を学び、2001年から奄美大島でマングースの駆除に携わった。犬を調教するハンドラーとしての実力を買われ、昨年度から奄美とともに世界自然遺産に登録された沖縄島北部・やんばるのバスターズとして活動する。
奄美に探索犬が導入されたのは07年。マングースの生息数が減り、わなでは捕獲が難しくなった場所で駆除を進めるため、ニュージーランドから取り入れられた。当初は居場所を探る目的だったが、後に個体を追い詰める技を習得。山下さんは「巣穴を見つけるなど想像以上の働きをしてくれた。希望が見えた瞬間だった」と語る。探索犬による捕獲数はわなと肩を並べるまでになった。
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奄美から姿を消したマングースだが、沖縄島中南部には依然として高密度で生息する。
同島には奄美より70年ほど早い明治時代末期に南部で放され、繁殖しながら次第に北上。1990年代にはやんばるの森に到達し、ヤンバルクイナといった貴重な固有種を捕食した。2002年度の調査では島全域に約3万匹いると推定された。
やんばるでは国と県が駆除に取り組み、一定の効果を上げている。他方、それより南での対策はほぼ手つかずで、定期船を介して奄美への侵入がないとは言い切れない。
車両やコンテナを一つずつ点検するのは現実的に難しく、水際対策には限界がある。環境省の阿部愼太郎・国立公園保護管理企画官は「再侵入のリスクを下げるためにも、沖縄での根絶が理想」と強調する。
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やんばる地域の面積は奄美の4割にあたる280平方キロメートル。奄美と同じ00年に駆除を始めたが、捕獲数はここ数年で増加し、根絶の見通しは立っていない。
やんばるのバスターズが所属する南西環境研究所(沖縄県西原町)の中田勝士さん(40)は、沖縄の駆除が出遅れた要因としてリュウキュウイノシシによるわな被害のほか、探索犬の導入遅れなどを挙げる。初期の探索犬はマングースのふんを探す能力に優れ、奄美のように追い込み捕獲ができる犬種でなかった。中田さんは「警戒心が強く、わなにかからないマングースもいる。探索犬を使った捕獲は駆除の最終段階で重要度が増す」と強調する。
根絶に向けた総仕上げとして、ハンドラー経験の豊富な山下さんに期待が集まる。山下さんは「一匹でも多く捕獲し、やんばるでの根絶に貢献したい。結果的に奄美の再侵入防止につながる」。植生など奄美との環境の違いを感じながら、トゥイとエイビ、2匹の探索犬とともに模索を続けるつもりだ。