「福島の教訓は風化していないか」…脱炭素社会の実現旗印に原発回帰進むエネルギー政策 増え続ける電力需要の中で、再エネ導入にも課題山積

2024/10/22 06:30
川内原発運転差し止め訴訟の口頭弁論に臨む原告ら=9月、鹿児島市の鹿児島地裁前
川内原発運転差し止め訴訟の口頭弁論に臨む原告ら=9月、鹿児島市の鹿児島地裁前
 27日投開票の衆院選に合わせ、鹿児島県内で浮き彫りとなっている課題について現状を探るとともに、県内4選挙区に立候補した12人の考えを聞いた。(衆院選かごしま・連載「論点を問う」⑤より)

 9月下旬、鹿児島地裁であった九州電力川内原発(薩摩川内市)の運転差し止め訴訟の口頭弁論。国と九電が棄却を求めるのに対し、原告の住民側は地震対策や避難計画を問題視し、「安全性の確保は到底できない」と訴えた。

 裁判は東京電力福島第1原発事故から間もない2012年に始まり、結審間近となっている。この間、川内原発は15年8月に全国で最初に再稼働し、今年7月には1号機が「原則40年、最長60年」の現行ルールに基づく40年超の運転延長期間に入った。

 国のエネルギー政策は福島事故の反省に立脚するとうたう。ただ、「可能な限り原発依存度を低減する」方針は、21年の前回衆院選後に大きく変わった。脱炭素社会の実現を旗印に「最大限活用する」と原発回帰へ転換。法改正などを経て25年6月に移行する新ルールで、川内原発は60年超運転が視野に入る。

 「福島事故の教訓は風化していないか。国民的議論が生煮えのままでの政策転換は裏切りでは」。鹿児島市で出版社を経営する男性(47)は疑問を呈す。原発に絡む論戦が乏しい今選挙戦にも注文がある。「国民の命を預かる立場になろうというのだから、議論から逃げないでほしい」

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 国は24年度中にエネルギー基本計画を改定する予定で、40年度の電源構成の目標を出す。原発は「最大限活用」を踏襲するとみられる。経団連も10月、経済成長を図るために再稼働の促進や新増設・建て替え計画の具体化を求める提言を出して援護射撃した。背景には人工知能(AI)などの普及に伴い、電力需要が増加するとの見通しがある。

 九州では半導体工場の立地が進む。九電の池辺和弘社長は、安定した電力供給の必要性に加え、「工場などが九州に来ないと若者の働く場がなくなる。二酸化炭素を出さないためにも原子力は非常に大事だ」と説く。凍結中の川内原発3号機の計画は、立ち消えになったわけではない。

 その一方で、使用済み燃料の処理問題は解決に程遠い。1993年に着工した日本原燃の再処理工場(青森県)は8月に27回目の完成延期を表明したばかり。高レベル放射性廃棄物の最終処分地は定まらないままとなっている。

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 現行エネ計画で「主力電源化を徹底」とした再生可能エネルギーの導入も一筋縄にいかない。30年度の電源構成比で36~38%を掲げるものの、22年度は22%だった。原子力政策に詳しい明治大学の勝田忠広教授(56)=鹿児島市出身=は「原発が再稼働しようという時に、再エネに参入するのは業者にとってリスクでしかない」と指摘する。

 県内の現場では課題も噴出する。3月、伊佐市の大規模太陽光発電施設(メガソーラー)で起きた火災では、感電や爆発を防ぐため消防が放水できなかった。各地で計画が進む風力発電は、環境への影響を懸念する声が絶えない。

 それでも、勝田教授は「低成長時代には再エネの方が電気をつくりすぎる心配は少ない」とメリットを挙げる。南日本新聞が4月に実施した県民意識調査では、川内原発の運転延長に賛成する人の理由は「再エネが普及するまで必要」が最も多い3割超を占めた。

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