収穫期を迎えた田んぼを見つめる男性=16日、伊佐市菱刈
27日投開票の衆院選に合わせ、鹿児島県内で浮き彫りとなっている課題について現状を探るとともに、県内4選挙区に立候補した12人の考えを聞いた。(衆院選かごしま・連載「論点を問う」⑦より)
この夏、全国的にコメが品薄となった。鹿児島県内でもスーパーの売り場からコメが消え、新米が出始めた今も「1家族1点まで」といった制限が続く店舗もある。
鹿児島市の会社員女性(55)は「購入制限なんて今まで経験したことがなかった」と戸惑う。高校生の息子がおり、毎日の弁当に加えて、部活用に1合炊いて持たせることもあるため、コメは必需品だ。
「令和のコメ騒動」と呼ばれる2023年産米の品薄は、高温障害による流通量の減少や訪日客の回復による需要の増加が要因とされる。在庫が少なくなる端境期に地震や台風が重なり、備蓄用の買いだめも拍車をかけた。
全国農業協同組合連合会(JA全農)の分析では、前年と比べた需要増は15万トン、猛暑の影響による不足は7万トン。需給がわずかに乱れただけで、市場と消費者はパニックに陥り、価格もつり上がった。女性は「去年は5キロ袋で1680円くらいだったのが今は3000円超え。家計に結構な痛手」とため息をつく。
■ ■ ■
主食を巡る混乱を受け、衆院選ではコメ政策が争点に浮上した。各政党は増産や所得補償を打ち出し、自給率向上やコメの安定供給を訴える。
「国の主導で面積を減らしてきたのに、いまさら足りないと言われても」。さつま町の中山間地でコメを作る男性(70)は憤る。
食の欧米化などで1960年代にコメが余り始めたのを背景に、国は約半世紀にわたり、生産量を調整する減反を推進した。男性はかつて1ヘクタール作っていたのが、今は自宅周辺の65アールのみ。「手放した土地は荒れ地になった」と嘆く。
2018年の減反廃止後も、国は需要予測に基づく生産量の目安を示し、麦や飼料用米などへの転作に補助金を出すことで、事実上、生産を抑えている。ピークに1400万トンを超えていた生産量は現在は600万トン台に減った。
一方、伊佐市で15ヘクタール作付けする男性(45)は「生産が過剰になれば米価は暴落する」と危惧する。肥料や農機具といった生産コストは年々上昇している。24年産は別として、これまでの価格は安く、多くの農家は採算が合わなかった。「国内は人口減で需要は細る。増産し、輸出するにも、売り先を確保してくれないと余るだけだ」と不安を口にする。
■ ■ ■
5月に食料・農業・農村基本法が改正され、食料安全保障の強化が盛り込まれた。主食のコメは要となる作物。生産調整を続けるのか、増産にかじを切るのか。
鹿児島大学の坂井教郎教授(54)=農業経済学=は「不測の事態に備えた備蓄の増量も言われているが、コストがかかり、負担は消費者に跳ね返る。国民に食料を手頃な価格で安定的に供給するのが本筋」と話す。
値上がりで困窮世帯が十分な食事を取れなくなり、買い控えも懸念される。逆に余って価格が暴落すれば離農が進み、生産基盤が弱体化しかねない。坂井教授は「コメや麦のような土地利用型作物は競争力が弱く経営が厳しい」とし、支援の必要性を指摘する。
生産者を守りつつ、国民に食料をいかに供給するか。コメ騒動が突きつけた課題に向き合う覚悟が問われる。