ランピースキン病に感染した牛。皮膚に結節が生じるのが特徴(モンゴル国中央獣医学研究所提供)
福岡や熊本県で牛の伝染病「ランピースキン病」が発生している。口蹄疫(こうていえき)と異なり致死率は低く多くは自然治癒するが、乳量減少や出荷制限による経済的ダメージは少なくない。ワクチン接種県の牛肉は米国へ輸出できなくなるため、和牛生産の盛んな鹿児島県に侵入すれば影響は大きく、関係者は警戒を強めている。
ランピースキン病はサシバエなど吸血昆虫の媒介で広がる牛の病気で、人には感染しない。11月6日に福岡県糸島市の乳用牛で国内初発生し、12月26日までに福岡県19農場(乳用189頭、肉用2頭)、熊本県3農場(内訳非公表)で確認された。発症牛の隔離や自主淘汰(とうた)といった対応がとられており、感染が相次いだ福岡県は11月21日から半径20キロ内の希望農場でワクチン接種を始めた。
ただ12月12日以降、ワクチンを接種した牛がいる県から米国へ牛肉を輸出できなくなった。接種開始日以降に接種県内で生まれたり、飼養されたりした牛の肉が対象。これらの牛は米国向け輸出牛肉を取り扱う認定施設に搬入できない。農林水産省によると、規制対象範囲の縮小を求めて現在、米国側と協議している。
鹿児島県にとって米国は牛肉の主要な輸出先。県畜産振興課によると、県内には対米輸出の認定処理施設が4カ所あり、2023年度の県内牛肉輸出量は米国向けが343トン。全体の2割弱に当たり、国・地域別で3番目に多い。
認定施設の一つ、ナンチク(曽於市)の坂元秀明輸出促進部長は「現時点で大きな影響はないが、万が一、県内で発生し、ワクチンを打つ事態になれば影響は大きい。基本的な防疫対策を徹底してもらっている」と話す。JA県経済連肉用牛事業部の担当者も「米国向けは輸出用の3割弱を占める。国内でさばくとなると、需給バランスが崩れてしまう」と懸念する。
侵入・まん延防止へ向け特に吸血昆虫対策が求められており、牛舎の害虫駆除、農場に出入りする車両の消毒や殺虫の徹底などが推奨されている。詳細は農水省ホームページに掲載している。
◇ランピースキン病 ウイルスが引き起こす牛の届出伝染病。主に蚊やサシバエ、ダニなど吸血昆虫の媒介で広がるが、感染動物との接触でうつる場合もある。皮膚に発疹のような結節ができるのが特徴で、発熱や食欲不振、乳量の減少などの症状が見られる。死亡率は1~5%。海外では乳用種のホルスタインが感染しやすいという報告がある。