西之表市長選の開票作業を始める市職員=2日午後8時半ごろ、同市民会館
2日投開票の鹿児島県西之表市長選・市議選は、馬毛島の自衛隊基地整備を巡る民意の変化を裏付ける結果となった。市長選は、賛否を示さない「黙認」の形で対応する現職の八板俊輔氏(71)が3選。市議選も賛成派が初めて多数を占めた。これまで結果に表れていた「基地反対」の市民感情は、2023年1月の着工を境に揺らいでいる。
「後戻りできないんじゃないかとの思いは増えているだろう。一方で推進してきた人たちも『思ったような恩恵がない』と感じている。(市民感情の)変わり方は両方ある」。八板氏は開票結果をこう分析した。
基地整備が計画段階だった前回21年は実質的に賛否を問う一騎打ち。「不同意」を掲げた八板氏が制した。6人で争った今回は八板氏の2656票に対し、賛成・容認4人が計4909票。反対を掲げた医師三宅公人氏(72)は948票にとどまった。
定数14の市議選も反対派が7議席から5議席に後退。21年6月に続き、市議会として基地整備に賛意を示す意見書が出されるのは確実な情勢だ。
■行き詰まり
市民も基地着工前後の変化を感じている。
無職男性(68)は「国策で進んでおり、市民は前向きにならざるを得ないのでないか」と指摘。農業男性(47)は「もろ手を挙げての賛成だと、万が一、種子島側にも基地を造るとなったときに拒否しにくい。賛否を明言しない選択肢があってもいい」と話す。別の有権者からは「ただ反対しても市民のためにならないという空気に変わった」との声も聞かれた。
基地反対運動をけん引する市民団体には、これまでにない正念場といえる。「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」の山内光典会長(74)は「市に活性化策がないから基地に頼る傾向が強まる。肌感覚で反対3割、推進7割になっている」と危惧する。
基地整備が始まって初めての市長選。同団体の動向が注目されたが、基地反対を堅持するメンバーと「親八板派」に分裂し、これまでの活動のような存在感は見せられなかった。山内会長は「行き詰まりを感じている。まずは新たな市議5人を通じ、市や国に問題提起していく」と話した。
■新たな受け皿
もう一つの特徴が若手の台頭だった。元市職員鮫島斉氏(47)と会社員鎌田孝章氏(45)は立候補表明が遅れ明確な支持基盤を持たない中、ともに1016票を獲得した。混戦の要因でもある馬毛島を巡る現職への不信感、変革を望む声の受け皿となった。
鮫島氏は行政に約30年関わった観点から、鎌田氏は統計学を基に地域課題をまとめ、解決に向けたアイデアを選挙戦でぶつけた。「若さと政策を考慮して投票先を選んだ」と自営業男性(52)。とりわけ市街地から離れた周縁部での評価が高かった。
基地とどう向き合い、未来を形づくるかが問われた今回の市長選・市議選。基地整備の是非の論争から離れたという点で、西之表市は大きな転換期を迎えた。