検事「キタガワ」を名乗る男とのLINE通話画面。名前は事件番号だという
電話や交流サイト(SNS)を悪用した詐欺が相次ぐ中、うそ電話で現金600万円をだまし取られた鹿児島県内の30代女性が20日までに、南日本新聞の取材に応じた。警察官などを名乗る男女3人が代わる代わる登場し、「作り話で容疑者扱いされた。気が動転し、言われるがまま要求に応じてしまった」と打ち明けた。
女性によると1月16日午前8時半ごろ、「070」から始まる見知らぬ番号から携帯電話に着信があった。警視庁捜査2課の「サクライ」と名乗る男で、名前と住所を知られていた。「特殊詐欺グループのヤベというリーダーを逮捕した」と切り出され「ヤベの自宅からあなた名義のキャッシュカードが見つかった。ヤベは『あなたから口座を買った』と供述している。あなたは容疑者になっている」と言われ、佐賀県警へ出頭するよう求められた。
女性が断ると、通話相手が突然、同県警捜査2課の「クロキ」と名乗る女に代わり、LINE(ライン)のビデオ通話を促された。「これは未公開事件。他人に話すと、その人も捜査対象になる。電話を切るとあなたが何かを隠していると判断する」と言われた。
クロキの口調は「同情するようで優しかったが、相談させる暇を与えず、たたみかけてくるようだった」という。事件番号なるものを伝えられ「本格的な捜査だと思い、気が動転した。早く無実を証明したいという思考回路になった」。
さらに、電話先は検事の「キタガワ」という男に代わり、「口座に犯罪資金が送られている。無罪を証明するには紙幣の識別番号を調べる必要がある。指定口座に振り込んで」と指示された。「このままでは容疑者として顔と名前がテレビに出る」と脅され、女性は「パニックになった。家族まで危険な目に遭うと思った」と当時の心境を語る。
電話をつないだまま車で金融機関に行き、窓口で500万円、ATMで100万円を指定されたネット銀行の口座に振り込んだ。金融機関の職員に声をかけられたが、「仕事の振り込みなので大丈夫です」と断ってしまったという。
通話は7時間を超え、振り込んだ瞬間に電話は切れた。不審に思った女性は佐賀県警に「捜査2課にクロキという警察官はいますか」と電話で尋ねると「それは詐欺です。すぐに警察へ行って」と諭された。翌17日に鹿児島県内の署に相談し、捜査が始まった。
女性は子どもの教育費や生活費のために貯蓄していた。「今思えば、警察がLINE電話で事情聴取するのはおかしいし、内容も理解できていなかった。冷静な判断ができていれば」と振り返る。「長時間話しっ放しで相手を疲れさせ、切迫したような口調で動揺させる手口に引っかかってしまった」と悔やんでいる。
県警によると、2月20日時点で摘発には至っていない。