超党派の国会議員連盟の総会で再審法改正の必要性を訴える鴨志田祐美弁護士=2024年10月、東京・永田町
確定した裁判をやり直す再審制度の法整備に向けた動きが加速している。超党派の国会議員連盟が今国会の法案提出を目指しているのに対し、法務省は慎重姿勢を一転させて法制審議会(法相の諮問機関)への諮問を決めた。主導権を巡る綱引きの様相を呈する中、冤罪(えんざい)被害者の早期救済のために「スピードと質」を両立させられるかが焦点だ。
「最大の人権侵害を撲滅するという使命感は共通している」。2024年3月に発足した「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」は1月28日、初の実務者協議を開き、議員立法で法案成立を目指す方針を確認した。
再審規定がある刑事訴訟法の改正案の骨子を提示。(1)裁判所の証拠開示命令の明文化(2)再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての禁止(3)原審に関与した裁判官の担当除外(4)手続き規定の整備-を挙げた。
24年10月、静岡県一家4人殺害事件で確定死刑囚だった袴田巌さん(88)が再審無罪となり、福井女子中学生殺害事件で服役した前川彰司さん(59)の再審が確定した。柴山昌彦会長(自民)は「(再審無罪が相次ぎ法改正した)台湾は世論が沸騰した時に一点突破した。機は熟した」と述べた。
■慎重姿勢を一転
その翌日、法務省の大臣室には自民会派の国会議員4人の姿があった。23年6月に始動したとされる議員勉強会のメンバーで、「法務省を中心に法改正に着手すべきだ」とする提言書を鈴木馨祐法相に手渡した。
勉強会は法相経験者ら7人で構成し、議連の設立前から水面下で法曹三者と議論してきたという。関係者は「議連をけん制している。最近は活動が停滞していたが、急きょ提言の取りまとめに動いた」と明かす。
約1週間後、法的安定性などを理由に法整備に後ろ向きだった法務省は法制審への諮問を表明。鈴木氏は理由として勉強会からの提言を挙げた一方、24年6月に議連が提出した法整備の要望書には触れなかった。
議連の入会者は衆参国会議員の5割超に上り、議連主導の法改正が現実味を帯びる。ただ、刑訴法を議員立法で改正した例はないとみられ、法務省幹部は「実務に携わる裁判官を含め、さまざまな立場の専門家の意見を聞く必要がある」と強調する。
■同時並行
大崎町で男性の変死体が見つかった「大崎事件」は、過去3回の再審開始決定が検察官の不服申し立てによって取り消された。法制審では検察官抗告の是非などが論点になる見通しだが、法務省は禁止に抵抗姿勢を示してきた経緯がある。
法制審の議論は少なくとも1年はかかるとみられる。大崎事件弁護団の鴨志田祐美事務局長は「過去の再審事件から法の不備は浮き彫りになっている。法制審を経た立法では時間がかかりすぎる」と指摘する。
議連は2月17日、冤罪被害者らを法制審の委員に加えるよう法相に要望した。逢坂誠二幹事長(立憲民主)は「議連が(法改正)の扉をこじ開け、足らざる部分を法制審がゆっくり議論して埋めていく。同時並行で成り立ちうる」と話した。