長時間労働が当たり前のバス業界 朝夕ラッシュを乗り切るための「中休み」は給与出ない、気も休まらない

2025/03/09 11:27
午後からの勤務に備え仮眠する運転手=2月、鹿児島市小野町の南国交通鹿児島営業所
午後からの勤務に備え仮眠する運転手=2月、鹿児島市小野町の南国交通鹿児島営業所
 運転手が足りない。地方だけでなく鹿児島市内でも運転手不足による路線バスの減便・廃止が相次ぐ。住民の移動を支えるバス業界の求人難は深刻だ。待機時間のある変則勤務や事故リスクが敬遠されがちな上、平均年齢の高さなど構造的問題も横たわる。バス運転手を取り巻く実情を紹介する。(連載かごしま地域交通 第2部「運転手はどこへ」③より)

 あるバス運転手の一日。午前6時半には営業所に出勤し、早朝便の運行前点検や点呼を済ませる。通勤ラッシュで渋滞する道路状況や混雑する車内に気を配りながら、2時間かけて路線を1往復すると営業所に戻ってきた。その後も乗務し、勤務開始から8時間後の午後3時すぎには退勤-とはいかないらしい。

 南国交通(鹿児島市)では5勤1休を基本に「早番」「遅番」などの勤務を回している。その中に、朝夕の通勤時間帯を限られた人数で乗り切るための「中休」と呼ばれる勤務が存在する。

 例えば、午前7時台から乗務した後、通勤客のピークが落ち着く午前10時ごろから夕方までの5、6時間、中休みに入る。午後4時ごろから夜まで再び乗務し、帰宅ラッシュをカバーするというわけだ。所定の労働時間を守ったまま朝夕の混雑に対応する措置で、業界では定着している。同社では人手に陰りが見え始めた2013年に導入した。

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 中休みは勤務時間ではないため給与は出ない。一方で帰宅も認められる自由時間だ。とはいえ営業所と自宅を往復する手間と時間を考えると現実的ではない。大抵は営業所や車内で仮眠するか休憩するかして過ごすことになる。

 南国交通労働組合の鬼塚俊一執行委員長(60)は「夕方の運行を控えて気は休まらず、結果的に帰宅も遅くなる。若手から『家族との時間が取れない』との声も聞く」と明かす。

 バス運転手の仕事を選んでもらうためには、昔の感覚から脱却する必要があると鬼塚委員長は指摘する。「われわれの年代では当たり前だった長時間労働を是正しない限り、若い人は入ってこない」

 本来なら朝と夜、毎日別の運転手で運行できれば実質の拘束時間は短くなる。十分な担い手がいればの話だ。「健全なローテーションを組むには30人程度運転手が足りない。何とか穴埋めしながらつないでいる状況だ」。鬼塚委員長のため息は深い。

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 業務の特性上、労働時間が長くなりがちな運輸業界などの働き方を見直そうと、国は24年4月、バスやトラック運転手の時間外労働(残業)の上限規制を厳しくした。これに伴い、退勤から次の始業までの休息時間(インターバル)も従来の8時間から最低9時間に延長された。

 ここで悩ましい状況が浮き彫りになった。従来のダイヤでは、最終バスを担当した運転手が9時間のインターバルを確保すると、翌朝の始発運行に間に合わなくなるのだ。朝の通勤・通学への影響を抑えるため、各事業者は最終バスの時間を1時間ほど早めて対応することになった。

 昨春、県内路線バスのダイヤ改正で、始発最終の繰り下げ・上げが散見されたのはそのせいだ。「限られた人数でやるわけだから、朝、夜のどちらかを切るしかない。苦肉の策だ」と中堅運転手は申し訳なさそうに話す。

 残業が少なくなって手取りが減り、離職した同僚もいるという。「労働者の健康を守るはずのてこ入れが“24年問題”と呼ばれている時点でおかしい」

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