口つぐむメディアの女性たち「拒むと仕事は激減した」。乏しい社内理解も障壁…「会社が守ってくれるとは思えない」

2025/03/11 06:03
「仕事を失ってでも関係を断つことができて良かった」と話す鹿児島県出身の女性=2月下旬
「仕事を失ってでも関係を断つことができて良かった」と話す鹿児島県出身の女性=2月下旬
 国際女性デーに合わせ、南日本新聞社が九州・沖縄の新聞社と鹿児島県の民放テレビ局計14社に社員の男女比などを尋ねたところ、20~34歳は女性が半数程度を占め、男女数の均衡が取れていた。35歳以上は女性の割合が大幅に減り、男性が8割以上を占める。(連載「メディア平等ですか?~当事者としてジェンダー格差の現状㊥」)

 鹿児島県外でフリーアナウンサーやタレントとして活動する同県出身の20代女性は数年前、出演する番組のスポンサー企業の中高年男性から、性的関係を繰り返し迫られたと証言する。

 信頼していた制作会社の男性から「気に入られた方がいい」と紹介された人物だった。最初は複数人で食事に行く仲だったが、次第にスポンサー企業の男性から「仕事をあげる代わりに愛人にならないか」と持ちかけられるようになった。

 「拒絶すれば番組に呼ばれなくなるかもしれない」と思い悩む日々が続いた。何とかかわしてきたが二人きりになった時にホテルに連れ込まれ、相手の目を盗んで逃げ出すと、その後、仕事は激減した。後日、共通の知人から「愛人になれば制作会社の男性が報酬を受け取ることになっていた」と聞き、誰も信じられなくなった。「売れるためには我慢するしかないと思っていたが、そんなことはない。関係を断つ判断ができて本当によかった」と振り返る。

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 新聞社・テレビ局関係者からもセクハラ被害を訴える声が上がる。県内で勤務する30代女性は20代前半の頃、重要な取材先の男性に食事に誘われた。酒が進むと交際を迫られ、手を握られた時は恐怖で体が固まったという。後日、同僚に相談すると「明らかに気をつけた方がいい人って分かるでしょ」と言われ、「自分が悪いのか」と苦しんだ。

 あるテレビ局の20代女性は、過去にセクハラをしてきた取材対象者の男性が参加する懇親会に誘われた。同行する男性の先輩に「参加したくない」と伝えたが、「あなたがいないと先方が喜ばない」と説得された。「取材先をむげにはできない」と渋々向かうと、男性の隣の席が用意されていた。女性は「社内ではセクハラで処分を受けた男性がその後も順調に昇進している。会社が守ってくれるとも思えない」と話す。

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 日本芸能従事者協会(東京都)がメディア、芸能従事者らを対象に実施したアンケート(2022年)によると、411件の回答のうち73%がセクハラを受けたり見聞きしたりした経験があった。「ハラスメントを受けたときに相談したか」には403件の回答があり、48%が「相談しなかった」と答えた。理由は「相談しても解決しない」「人間関係や仕事に支障が出る恐れ」が多かった。

 同志社大学の佐伯順子教授(比較文化論)は「まずは仕事とハラスメントが結びつきやすい環境を変えるべきだ」と指摘する。

 ハラスメントの相談窓口を外部に委託するなど相談者に不利益が生じない仕組みが必要とし、「メディアは自らが倫理道徳を守り情報発信することが求められるが、理想論として脇に置かれているのではないか。メディアが互いに監視し、点検の目を向け合うべきだ」と提言する。

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