「本件控訴を棄却する」-。13日午後1時半、福岡高裁宮崎支部の法廷に裁判長の声が響いた。2018年に鹿児島県日置市で男女5人を殺害したとして殺人などの罪に問われた岩倉知広被告(45)は、座ったまま微動だにせず、裁判長を見つめていた。極刑は回避できないとの判決。しかし、遺族が真相に迫る機会は乏しいまま、控訴審は終わった。
岩倉被告は背中を丸め、うつむきながら入廷した。背中の真ん中辺りまで伸びた髪をヘアゴムで一つにまとめ、痩せた印象だった。
開廷から約20分間は裁判長から目を離さなかった。朗読が続くと次第に目線は下がり、終わるころには斜め下をぼんやりと見つめていた。
2020年12月の一審判決言い渡し直後、法廷にいた遺族らへ飛びかかった岩倉被告。控訴審判決公判では7人の刑務官に囲まれた。判決理由の朗読は約1時間。暗く不安げな表情は最後まで変わらなかった。閉廷すると傍聴席の遺族には目を向けず、刑務官に連れられて静かに退廷した。
控訴審で聞けた岩倉被告の発言は、裁判長から名前などを問いかけられた際、何度か返事をした時だけ。自らの言葉で心情や事件について述べる機会は与えられなかった。
傍聴した遺族の男性(73)は「裁判所には良い判断をしてもらったと感じている」とする一方、「死刑という重みを考えると、喜んでいいのか複雑な思いは拭えない。慎重な審理だったと思うが、真相は分からないままだった」と無念さをにじませた。