受験番号を確認する鹿児島商業高校の受験生。共学化、学科再編で定員割れを脱した=鹿児島市
公立高校の定員割れが深刻さを増している。全国で再編の動きが活発化する中、鹿児島県教育委員会は2025年度当初予算案に、県立高校の在り方を議論する検討委員会設置を盛り込んだ。再編に向けた議論を求める学校関係者がいる一方、地方からは小規模校の存続を懸念する声が上がる。
充足率76%。25年度公立高入試1次選抜の合格者は定員の8割に達しなかった。60校で2849人を2次募集するが、全てが埋まる見込みは薄い。少子化に加え、私立や通信制に一定数が流れたとみられる。
■活性化策は明暗分かれる
歯止めをかけようと県教委は23年度から「魅力ある県立高校づくり」に取り組む。その一環で種子島中央(中種子町)に24年度、ミライデザイン科を新設したが、受験者は定員の半数に届かなかった。
23年度入試で倍率0.45だった市立校の鹿児島商業(鹿児島市)は男女共学、学科再編後の25年度に1.33に急伸したが、活性化策が実を結んだ学校は一部にとどまる。
■富山、高知、熊本で「再編」加速
全国では再編や活性化の動きが強まっている。富山県は昨年11月、38年度までに全日制34校を20校程度にする方針を打ち出した。高知県は今年1月「賢い縮小」を掲げ、32年度までに定員を1200人以上減らしていく想定だ。
隣県の熊本県は04年から、再編計画を進める。1学年4~8学級とする「適正規模」を基準に、18年までに61校を50校に減らした。一方で人気校の学級数を減らし、学区も見直すことで地方校への進学も促した。
21年からは再編をいったん見合わせ、学校の魅力向上に注力。民間企業と連携した新学科設置を進めた。出版社が協力する高森(高森町)のマンガ科は、今春の入試倍率で県内トップの3.17倍となっている。高校魅力化推進室の永田健吾室長は「施策を進めても8割近い高校が定員割れする時代。10年先を見据えた検討を続ける」と語る。
■地元は反発「高校がないと地域が廃れる」
熊本の基準に照らし合わせると、鹿児島の公立校は68校中34校が適正規模を満たしていない。ある学校長は「一定の統廃合に向けた論議は必要」と指摘する。
学校基本調査によると、中学卒業予定者は24年度の約1万5000人から32年度には2000人ほど減少する。「統廃合で学校規模を維持しなければ、教員数を確保できず、生徒が望む教科の授業が提供できなくなる」と危機感を募らせる。
地元の反発も予想される。「高校がないと居住地に選ばれなくなり、地域が廃れる」。いちき串木野市元市長の田畑誠一さん(85)は、公立校の存在意義を強調する。県教委が04年度から11年度に小規模校の統廃合を進めた当時、9市町の首長でつくる「高校再編関係市町村長かごしま県連絡会」の副会長を務めた。会は、反対集会や存続を求める要請活動を行った。通学の足となる公共交通機関の減便など、地方校を取り巻く環境は厳しさを増す。「地元で人材を育てる公立高を減らしていくのは、地方の切り捨てに等しい」と田畑さんは訴える。
◇2015年度を最後に「再編」棚上げ~鹿児島県の現状
鹿児島県教育委員会は2004年度から10年度に「かごしま活力ある高校づくり計画」(1次計画)を実施。全学年で6学級、在籍者数が2年連続で募集定員の3分の2以下などの整理統合基準に基づき18校を廃止、8校を新設した。11年度の振興方針案では、さらに基準を追加し、存続へのハードルを上げようとした。
これに地元自治体などが反発。11年2月、県は予算案に大隅地域の公立校の充実・振興策を検討する委員会設置を発表。伊藤祐一郎知事(当時)は会見で、方針案について「地域間格差是正の観点から見直しをお願いしている」と説明した。
知事の意向を受け、県教委は「今後は骨子案の廃止基準にこだわらず、学校単位で検討したい」と方針を転換。再編は15年度の楠隼(肝付町)開校を最後に実施されていない。再編に携わった県教委OBは「計画が頓挫したことが現状を招いた」と振り返る。
◇通学路線の減便、経済格差…公立高の役割は「都市部より大きい」~中教審分科会委員・岡本尚也さんに聞く
文部科学省中央教育審議会「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」の委員を務める、一般社団法人「Glocal Academy」(鹿児島市)の岡本尚也理事長に、公立高の現状や今後の展望を聞いた。
-中教審で議論された望ましい高校教育の在り方とは。
「キーワードは『多様性への対応』と『共通性の確保』。高校進学率が99%を超える中、居住地や不登校経験に左右されず、一般科目から専門的な学びまで、生徒が受ける教育の質や機会を、どう担保していくかに重きが置かれた。具体的な方策として、遠隔授業や通信教育を活用した、個別最適な学び方の推進が出た」
-鹿児島の公立高の特徴は。
「離島や中山間地域に立地する学校が多いほか、通学路線の減便、世帯年収を含む社会経済的地位の低下など、地方の社会問題が強く現れている『教育課題先進県』と言える。地域、家庭の制約を抱えて進路を選ぶ生徒も少なくないため、受け皿となる公立高の役割は、都市部に比べて大きい」
-公立高の定員割れは深刻だ。
「少子化によって全国的に生徒不足となっており、小手先だけの方策では改善できない。さらなる中学卒業予定者の減少を見据え、再編計画を打ち出す自治体も増えているが、鹿児島はまだだ。他県にはない課題も山積するため、現行の体制にメスを入れ、独自の方針を検討する必要がある」
-私立を含め授業料が無償化となる見通しだ。
「私学と学費の差がなくなることで、現場は教育の質がますます求められるようになる。学習環境や指導内容の専門性で、公立は私立に後れを取っている。教育内容に格差が生まれれば、私立隆盛だけでなく、通う生徒の学習意欲低下につながりかねない。公立高のてこ入れは急務だ」
◇略歴 おかもと・なおや 1984年、鹿児島市生まれ。慶応大理工学部卒、同大学院理工学研究科修了後、英国ケンブリッジ大で物理学博士号、オックスフォード大で現代日本学修士号取得。東京大先端科学技術センター客員上級研究員、鹿児島市教育委員など。