ウェブメディア「ハンター」が報じる鹿児島県警関連の記事
鹿児島県警の情報漏えい事件を巡り、県警は福岡市のウェブメディアを家宅捜索した。取材活動に従事する記者にとって、「取材源の秘匿」は堅守すべき鉄則であり、それを脅かす事態となっている。警察権力の暴走か適正な捜査か-。連載「検証 鹿児島県警」の第3部は、一連の経緯や海外の事例を通し、メディア捜索の是非を考える。(連載・検証 鹿児島県警第3部「メディア捜索の波紋」①より)
2023年10月、福岡市のウェブメディア「ハンター」は、独自取材で得たという鹿児島県警の内部資料を一部黒塗りにして、捜査の在り方を追及する記事を発信した。「告訴・告発事件処理簿一覧表」という書面で、事件の概要や処理経過などが記されていた。
24年3月には新たな一覧表を別のウェブメディアが掲載し、県警は「100件を超える事件の資料が外部に漏れた可能性が高い」と判断。刑事や警務部を中心とする50人態勢で捜査し、同4月にハンターを「関係先」として家宅捜索するなどして、巡査長(当時)を逮捕した。
この際に押収したパソコンから、当初の捜査目的とは別に、県警の不祥事を訴える文書を発見。ウェブメディアなどに執筆する札幌市の記者から転送されてきたPDFファイルで、「闇をあばいてください」との文言とともに、未公表の事案が複数記されていた。
県警は、札幌市の記者に文書を送ったのは前生活安全部長だと特定し、二つ目の情報漏えい容疑事件として逮捕した。
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一連の捜査過程に、メディア関連団体は「取材源の秘匿」を脅かすとして県警を一斉に非難した。憲法が保障する報道の自由の根幹を侵害する恐れから、強制捜査は「権力の暴走だ」とする声明が相次いだ。
日本新聞労働組合連合は同6月、「民主主義社会では許されない」との声明を発表。押収したパソコンの保存データを基に情報源を暴こうとした捜査手法を問題視した。日本ペンクラブも「ジャーナリストにとって情報源の秘匿は最高位の倫理だ」などと指摘。「表現の自由を保障するため、強制力で情報源を開示させるような行為は公権力も控えてきた」と批判した。
対する県警側は一貫して「適正だった」と主張している。野川明輝前本部長は「捜査の必要性と報道の自由、その両者の折り合いは永遠の課題である」と説明。安部裕行前捜査2課長は県議会で「適法な差し押さえから別事件の端緒を認めた。法的には問題ない」との見解を示した。
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差し押さえは鹿児島地裁の裁判官が許可している。その上で、家宅捜索の是非に加えて、当日のやりとりを巡って両者の認識が異なり、問題となっている。
元巡査長(地方公務員法=守秘義務=違反の罪で有罪確定)の裁判記録によると、証拠資料の中には、捜査員がハンター代表(65)に捜索差し押さえ許可状を示している写真が添付されている。
一方のハンター代表は「許可状の内容が分かるように提示されていない。そもそも強制捜査の必要性はなかった」と主張。違法な差し押さえだったとして、同6月には苦情申出書を県警に出している。
県警は「捜査は適正で、任意性も確保している」との立場を変えていない。ハンター代表は今年2月に福岡市であったメディア向けの講演で「確かに写真は撮られたが、許可状を読むために手渡して見せろと言っても見せなかった」と話し、双方の言い分は異なっている。