公式確認から69年 公害の原点・水俣病 被害者が高齢化、進む記憶の風化…次世代に教訓継承へ鹿児島の教育現場でいま、学ぶ動き加速

2025/03/28 16:00
水俣病センター相思社が保管するネガフィルムを見る鹿児島大学の読書会メンバーら=2月20日、熊本県水俣市
水俣病センター相思社が保管するネガフィルムを見る鹿児島大学の読書会メンバーら=2月20日、熊本県水俣市
 「公害の原点」と呼ばれる水俣病の公式確認から今年で69年。鹿児島では多くの人が被害を受け、今なお苦しんでいる。被害者の高齢化が進み記憶の風化が懸念される中、県内の教育現場で水俣病を「当事者」として学ぶ動きが広がっている。実践する関係者からは「次世代への継承のため継続的な取り組みが必要」との声が上がる。

 さつま町の盈進小学校は2024年度、5年生を対象に人権の視点から水俣病とハンセン病を学ぶ全7コマの授業に初めて取り組んだ。水俣病研究の第一人者で被害者救済に尽力した故・原田正純医師(享年77歳)=同町出身=の生涯をたどる漫画を町が製作したことがきっかけになった。

 歴史や発生した原因といった基礎知識や被害者への差別・偏見などの問題について事前に学習を重ねた上で、町の予算を活用し出水市出身の患者らを招いた講話を開いた。担当した前田千恵教諭(56)は「水俣病を自分事と捉え、生き方を見つめ直す児童が増えた。予算確保が課題だが、継続することが大切」と話す。「来年度の遠足で水俣に行くのはどうか」と提案があるなど、教員の意識にも変化があったという。

 同町教員らの任意団体「さつま町人権同和教育研究会」も、5月の学習会に初めて患者らを招く予定。

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 昨年5月の伊藤信太郎環境相(当時)と被害者団体の懇談で、環境省職員が被害者側の発言中にマイクを切った問題を受け、垂水高校の山之内勉教諭(58)は、3年生の国語の授業で石牟礼道子著「苦海浄土」を取り上げた。

 生徒は患者の苦しみや尊厳をつづった作品を読解。水俣病への初動対応が遅れたり、差別が生まれたりした背景についても触れ、鹿児島が直面する国策による原発や安全保障問題などに通ずる社会的構造の課題に思いを巡らせた。

 山之内教諭は「新聞記事も活用した。生徒は、水俣病事件は今も続く問題であり、自分たちの生活や人生と地続きであると改めて実感した」と振り返る。ただ来年度に使用する教科書はこの作品が載っておらず、同様の授業は難しいという。「国語の定番教材として多くの教科書に採用されれば、記憶の継承へ大きな力になる」と力を込める。

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 鹿児島大学の学生や市民らが水俣病に関する本を音読し意見交換する読書会は17年度から始まり、今年で7期目を迎えた。メンバーは2月中旬、被害者支援の拠点となっている水俣病センター相思社(熊本県水俣市)を訪問。相思社が保有する関連の資料は国内最多とされる。写真の整理を体験した同大農学部1年山村美生さん(19)は「私たちの知らない問題がまだまだある」と実感した。

 読書会を主催する同大大学院理工学研究科の中川亜紀治助教(49)は「水俣病は医学や科学、人権など多くの側面があり、多様な切り口から関われる。先入観を持たず、鹿児島からさまざまな視点で考える場をつくり続けたい」と強調した。

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