過密出動の消防救急車を補う「民間救急」が4年で倍増 高まる期待と裏腹に認知まだまだ。さらにドライバー不足も影を落とす 鹿児島県内

2025/03/29 06:27
転院する女性を車両に運びこむ民間救急スタッフ=枕崎市折口町
転院する女性を車両に運びこむ民間救急スタッフ=枕崎市折口町
 緊急性の低い患者らを搬送する「民間救急」が県内で広がっている。救急車の出動件数が増える中、消防救急の負担軽減が期待される。一方で、理解が進んでいなかったり、人手不足で休止したりなど課題もある。

 3月上旬、枕崎市の小原病院に民間救急ハーネスケア(鹿児島市)の患者搬送車が着いた。脳梗塞で約3週間入院した南九州市の女性(97)が転院することになり、病院の依頼を受けた。

■サイレンや赤色灯はなし

 女性は意識障害があり、酸素投与やたんの吸引、輸液ポンプの管理が必要。ストレッチャーに寝かせ、ワゴン車に載せる。搬送看護師の川原真貴さん(41)が体の状態や薬の貼付時間など必要事項を病院看護師から引き継ぎ、約20キロ離れた同市の南薩ケアほすぴたるに向かった。

 サイレンを鳴らしたり、赤色灯をともしたりする緊急走行はできない。揺れに注意しながら、約30分かけて転院先に到着した。ドライバーと看護師の人件費、介助、機材料など含め費用は約3万5000円。同行した次男(70)は「費用はかかったが、無事転院できてよかった」と胸をなで下ろした。

■消防救急車、搬送の3割は軽症

 総務省消防庁によると、県内では2024年4月現在、8消防本部で21事業所が患者等搬送事業者に認定されている。4月以降も姶良市や鹿屋市で認定され、20年に比べ倍増している。

 背景には消防救急車の出動増加がある。県内では23年は9万9484件で、前年から5000件以上増えた。22年県消防年報によると、搬送者の3割超が軽症だった。軽症者搬送を民間が担うことで、消防救急は重症者の搬送に注力できる。

 ハーネスケアでは看護師と介護福祉士が同乗し、医療処置が必要な人や全介助の患者らに対応する。1月には鹿児島空港近くに営業所を開設、霧島市消防局の認定を受けた。

 同市消防局管内では、救急出動とともに転院搬送も増加傾向で、23年は1164件に上った。医師や看護師が同乗し、高次の医療機関から地域の一般病院に転院する「下り搬送」も含む。川崎敏朗消防局長は「医療機関との連携を深めて、救急車の適正利用につなげられたら」と期待する。

■「人手不足解消されないと再開難しい」

 一方、ドライバー不足が民間救急にも影を落とす。鹿児島市消防局が認定する8事業所のうち、3事業所が休止中だ。鹿児島第一交通(同市)は、タクシーの乗務員不足のしわ寄せが来ているという。担当者は「ニーズはあるだろうが、人手不足が解消されないと、再開は難しい」と明かす。

 一口に「民間救急」と言っても、事業者によってサービス内容や料金、質はさまざまだ。医療資機材を搭載しない福祉車両を使って運転手1人で搬送するところもある。

 ハーネスケアの江野光代表(41)は「民間救急の認知度はまだまだ低い。医療従事者の同乗が必要な事例で徹底されていないことがある」と指摘する。「利用者家族はもちろん、家族と事業者をつなぐ医療機関の担当者の認識も高めて、適切な搬送につなげていく必要がある」とした。

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