伊藤園との契約栽培で「ともに成長してきた」と話す堀口将吾社長=18日、志布志市の堀口園
鹿児島県は2024年産の荒茶生産量で初の日本一になった。戦後に生産を拡大した後発産地ながら、官民一体となって先進的な取り組みを進め、ニーズに柔軟に応えてきた。県内茶業界の歩みを振り返り、現状と課題を探る。(連載「かごしま茶産地日本一~これまで/これから」③より)
志布志市有明の堀口園の横に広がる茶畑には、「お~いお茶茶園」の看板が立つ。茶商の同社は市内中心に農家12軒を取りまとめ、自社農場を含む計670ヘクタールで伊藤園(東京)向けの茶を生産する。茶葉は伊藤園の主力ブランド「お~いお茶」をはじめとする茶飲料などに使われている。
堀口園の堀口将吾社長(45)は「創業者である父がもともと伊藤園の社員で、原料調達を担当していた。旧有明町で茶を作る実家を頼り、何軒かに声をかけたのがこの地域との契約栽培の始まりと聞く」と話す。
伊藤園は昨年、創業60周年を迎えた。国内荒茶生産量の約4分の1を扱う大手とはいえ、実績のない設立当初は信用が物を言う相対取引中心の静岡県で仕入れに苦戦した。原料の安定調達を目指し1976年に始めたのが、生産者から茶葉を全量買い取る契約取引。当時、新興産地だった鹿児島は開始当初から取引する産地の一つだ。
■共に成長
伊藤園鹿児島支店(鹿児島市)の大石武志支店長(49)は、生産者との関係を「車の両輪」に例える。
同社の荒茶取扱量の半数近くは、既存の生産者との契約栽培や荒廃農地を集約して新産地を造成する「茶産地育成事業」で生産された茶葉が占める。事業面積は2023年度で全国2512ヘクタール、約9000トンに上る。
うち面積・量ともに鹿児島がシェア4割と、産地別で最大となっている。鹿児島は平らで広大な茶園が多いため機械化が進み、効率的な大量生産ができる。多様な品種が栽培され、さまざまな風味や香りの茶葉が手に入るのも強みという。
生産者にとってもメリットは大きい。堀口社長は「相場に左右されず安定した収入が見込める。伊藤園からの要望で消費地の動向も分かり、後ろ盾があるから有機栽培や抹茶の原料となるてん茶など新しいことにも挑戦しやすい。共に成長してきた側面がある」。
リーフ茶の消費低迷により、茶価は右肩下がりが続く。全国的にも離農が相次ぐ中、堀口園の契約農家は代替わりが進み、30~40代の若手が活躍している。
■伸びしろ
ペットボトル茶に代表される茶飲料の消費は増加傾向にある。総務省家計調査によると、24年の1世帯当たりの年間支出額は8648円で、初めてリーフ茶を上回った07年の1.5倍になった。大石支店長は「国内はもちろん海外でも伸びしろはある」と断言する。
「世界のティーカンパニー」を目指す伊藤園は「お~いお茶」のグローバルブランド化を進め、米大リーグの大谷翔平選手を広告に起用した。25年度からの新・中期経営計画では販売国60カ国以上を目標に掲げ海外市場へ普及を図る。
茶産地事業も30年度までに2800ヘクタールへ拡大を計画する。大石支店長は「国内外に緑茶を安定供給するには、鹿児島はなくてはならない産地」と力を込める。