有機栽培茶のニーズは海外を中心に高まっている=3月19日、霧島市の霧島製茶
鹿児島県は2024年産の荒茶生産量で初の日本一になった。戦後に生産を拡大した後発産地ながら、官民一体となって先進的な取り組みを進め、ニーズに柔軟に応えてきた。県内茶業界の歩みを振り返り、現状と課題を探る。(連載「かごしま茶産地日本一~これまで/これから」⑤より)
寒の戻りで冷え込んだ3月19日、霧島市国分郡田の山間地にある霧島製茶の茶園はうっすらと雪が積もっていた。林修太郎社長(41)は「山林に囲まれ、よそから農薬が飛散する心配もなく有機栽培には適した環境」と話す。
現在、全25ヘクタールで化学的に合成された農薬や肥料を使わない有機栽培に取り組む。県内でも早い1993年に林さんの父が始めた。欧米などに有機農産物として輸出できる有機JAS認証も2001年の制度開始と同時に取得した。
「当初は病害虫にやられて収量が落ちたり、市場の評価が低かったりで苦労したと聞く。今となっては続けてきて良かった」。背景には旺盛な海外需要がある。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の支援を得て13年から有機煎茶を輸出する。当初は年数十キロだったのが、今は9トンと年間生産量の2割弱を占めるようになった。「海外バイヤーも頻繁にやって来る。営業しただけ売り上げが伸びる」と手応えを感じている。
■好相場
環境に配慮して生産された有機栽培茶へのニーズは欧米を中心に高い。
JA県経済連が県茶市場の買い受け人へ実施したアンケート(22社中19社回答)によると、25年産の有機栽培茶の価格は、回答した約半数の社が全茶期を通じて好相場を予想した。海外向けの需要は6社が「かなり強い」と答えた。
実際、県茶市場の有機栽培茶は24年産の年間取引単価が1キロ当たり平均1341円だった。荒茶全体の平均単価889円の1.5倍に当たる。
取扱数量も24年産は367トン。扱いが増え始めた16年産に比べ量は4.4倍になったにも関わらず価格は上昇している。担当者は「二番茶以降の値段が全体的に高い。輸出しやすい価格帯なので引き合いがあるのだろう」とみる。
■圧倒的シェア
県内の有機栽培面積は年々拡大し23年度は799ヘクタールで5年前と比べ3割増えた。茶全体の栽培面積約8000ヘクタールのうち1割弱が有機に転換した計算になる。有機JAS認証の取得面積で見ると、全国の49%に達し圧倒的シェアを誇る。
県農産園芸課によると、一般的に転換初期は化学肥料などを使わなくなるため収量や品質が落ちる。安定するまで最低5年はかかるため、その間の収入減が課題になる。その点、耐病性品種の導入が進む鹿児島は病害虫被害が比較的出にくい。加えて栽培面積が大きいことから、有機に適した品種への植え替えも徐々に進めれば、経営への影響は抑えられる。
先進地の霧島市、志布志市をはじめ各地で研究会が設立され、生産者が技術向上に励んでいる。2月には新たに南九州市で「知覧茶オーガニック研究会」が立ち上がった。前原翔太会長(35)は「国内消費は細っている。輸出がメインになっていく中、遅まきながら、需要に応じた高品質な有機茶を一丸となって作っていきたい」と意気込む。
県内取り組み面積は24年度に千ヘクタールを超える見通し。28年度に認証900ヘクタールという県の目標は前倒しで達成しそうだ。