埼玉の道路陥没事故で注目…うちの下水道、大丈夫? 普及率が低い鹿児島県でも50年を超える下水管は241キロも

2025/04/07 17:00
イメージ写真(記事とは関係ありません)
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 埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故で、下水道管の老朽化と安全対策に関心が集まっている。鹿児島県は下水道の普及率が低く、汚水を1カ所に集めず各家庭などで処理する浄化槽が多いのが特徴。リスクの表面化は他地域と比べて遅いとみられるが、70年前に下水道整備が始まった鹿児島市などは点検や修繕に力を入れ始めている。

 県生活排水対策室によると、下水道などを利用する住民の割合を示す汚水処理人口普及率は、2023年度末時点で85.7%となっている。下水道の普及率は43.7%で全国44位。下水道がある市町村は鹿児島市や霧島市、奄美市など18市町にとどまる。

 綾織孝文室長は低普及率の背景に、離島があって本土も山がちな地理的特徴を指摘する。下水道事業は自治体の運営だが、独立採算制であることを念頭に「人が住む平地が分散している。効率面で適さない場合が多い」と話す。

 一方で、家庭などから出る全ての排水を処理する「合併処理浄化槽」の普及率は39.2%で全国2位。配管は直径が10センチほどで、ほとんどが腐食しづらい塩化ビニール製。管を通すのも各住宅の敷地内だけで済むため、破損しても影響が広範囲に及ぶ可能性は低い。

 全国的に見れば鹿児島の下水道普及率は低いが、それでも約68万人が利用している計算になる。県内の下水管総延長3834キロ(今年1月末時点)のうち、標準的な耐用年数の50年を超える部分は約6%の241キロ。県は「20~30年後には老朽化対策が必要な箇所は大きく増える」とみる。

 鹿児島市は、下水道の利用開始が1955(昭和30)年と早い。水道局によると、全国の自治体で7番目。市内の下水管の延長2212キロのうち、50年超の割合は2023年度末時点で10.9%。10年後には32.5%になるという。

 市は以前から、下水管の中を移動できるカメラを点検に導入している。映像などを基に管の交換のほか、内側に塩化ビニールの膜を張り付けるなどの対策を進めているという。

 25年度の市の老朽化対策関連経費は約16億円。下水道管路課の田原吉範課長(3月当時)は「工事の人手不足や資材費高騰、市の財政など課題は多い。優先順位を付けて計画的に点検、対策していきたい」と話した。

 ◆点検の適切性、優先度が重要
 下水道事業は今後どうあるべきか。下水道政策に詳しい東京大学の加藤裕之特任准教授(64)に聞いた。

 -人口減少や節水機能の普及で料金収入は先細る一方、改修が必要な下水道管は増え続ける。自治体はどんな備えが必要か。

 「点検の適切性と優先度を付けることが大事だ。しばらく使える下水管は補修して長く使う一方、事故が起きそうなもの、事故が起きたら社会的影響が大きいものは優先順位を付けて取り換えないといけない」

 「民間にノウハウや人的資源を頼り、官民で協力する体制をつくっておくことも必要。適正な料金に上げておかないと経営は破綻する。市民の理解を得られるよう日頃から下水道の価値をPRしておくといい」

 -道路陥没事故を受け、国は下水道の点検頻度を高める方向で検討を始めた。だが多くの自治体は予算や人的資源が不足している。

 「今より頻度を高めるならもっと場所を絞るべきだ。科学的知見や社会的影響の大きさを考慮したり、復旧に時間がかかる場所だったり的を絞らないと自治体は付いていけない。ドローンなど先端技術の活用や開発も進める必要がある」

 -国の交付金があるとはいえ、上下水道事業の維持管理は使用料収入で運営する独立採算が原則だ。

 「国民の生活に欠かせない基礎インフラであり、国はもっと財政的な支援や投資をしないといけない。使用料は地方ほど高く格差がある。特に地方都市の老朽化や耐震化への対策を強化すべきだろう」

 「その上で事業の広域化が必要だ。一自治体の経営では限界に来ているし、低コスト化にもつながる。その一つの形態が官民連携事業(PPP)。一つの民間が複数の自治体から受注すれば、結果的に広域化になる。広域化すればもっと財政支援するといったような国の後押しは欠かせない」

 -下水管の更新はどう進めればいいか。

 「下水管は一度つくると50年もつ。20、30年後には人がほとんど住んでいない地域はパイプを改修せず、浄化槽に変えていくなど将来人口を見据えた判断が欠かせない。ただ浄化槽は汚泥が出る。汚泥を処理する集合処理的なシステムと浄化槽のような個別処理の連携が大事になってくる」

 かとう・ひろゆき 1960年横浜市出身。早稲田大学大学院修了後、86年に建設省(現国土交通省)へ入り、下水道事業に長く携わった。日水コン(東京)を経て2020年から現職。

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