船のハッチが固定されているか点検する枇榔秋信さん=20日、いちき串木野市羽島
北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故から23日で3年。26人が死亡、行方不明になった惨事を受け、観光船や遊覧船を運航する鹿児島県内の事業者は安全管理への意識を高めている。一方で、国が定めた安全対策に伴い、無線などの設備設置が原則義務化され、費用の捻出に頭を悩ませている。
20日、観光船事業を営むBマリン・サービスの枇榔秋信さん(77)は、いちき串木野市羽島の港に係留する船を入念に点検していた。20トン未満で定員12人。猿が生息する近くの無人島・沖ノ島などを巡る。
知床事故後、枇榔さんは「これまで以上に点検を強化している」という。特にハッチの固定状況やライフジャケットの準備・着用には注意を払う。天気図の確認も怠らず「風速や波の高さ、出港時の視界などを常にチェックする。状況によって中止できるかどうかがプロだ」と力説する。
第10管区海上保安本部交通部によると、2024年に鹿児島県沖で海難に遭った旅客船は5隻。15~24年までの10年では30隻ある。富樫広太郎航行安全課長は「鹿児島運輸支局と連携し、事故を1隻でも減らす。事業者には安全管理への緊張感を緩めないよう呼びかける」と語る。
国は事故後、船舶安全法関係規則などを改正。船の規模や運航する場所などによって違いはあるものの、陸上と常時通信できる法定無線設備や非常用位置等発信装置、救命いかだの搭載などを原則義務化した。
事業者はこの費用に苦悩している。県内で観光船を運航する事業者は、すでに無線と非常用の発信装置を整備した。「導入費だけでなく維持費もかかり、負担は大きい。この規制を機に廃業した事業者もいる」
原則義務化は遊漁船業も対象で、国は適用日を「検討中」としている。薩摩川内市上甑で観光船を運航する甑幸葉海業の中尾幸一郎社長(57)は「遊漁船業を続けられないと話す経営者は少なくない」と指摘する。
無線設置に対して、携帯電話で足りるという業者もいる。国土交通省海事局は運輸安全委員会がまとめた知床事故の報告書を踏まえ「携帯電話会社のサービスエリアマップ内で電波がつながらない海域もあった。徹底した安全管理に努めてほしい」と注意を促している。
■知床観光船沈没事故 北海道・知床半島西側の観光名所「カシュニの滝」沖で2022年4月23日午後、知床遊覧船が運航する観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没し、乗客乗員26人が死亡、行方不明となった。国土交通省は同6月、海上運送法に基づき定めた安全管理規程に違反する行為があったとして同社の事業許可を取り消した。運輸安全委員会は23年9月の調査報告書で、閉鎖が不十分だった船首付近のハッチからの浸水が原因だと指摘した。