ガザでは小児科も狙われた…続く大規模攻撃、物資も届かず「あまりに非人道的」 国境なき医師団の看護師が見た戦地の日常

2025/05/05 17:01
「何も罪のない人たちがどんどん死んでいっている」と現地の様子を語る中池ともみさん=4月18日、南日本新聞社薩摩川内総局
「何も罪のない人たちがどんどん死んでいっている」と現地の様子を語る中池ともみさん=4月18日、南日本新聞社薩摩川内総局
 イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザで大規模攻撃を再開して1カ月以上が経過した。ガザ保健当局によると、2023年10月の戦闘開始以降の死者は5万2500人を超える。南日本新聞に連載を寄稿していた看護師の中池ともみさん(42)=鹿児島県いちき串木野市出身=は、「国境なき医師団(MSF)」の一員として1月から3月下旬までガザで医療活動に従事した。帰国した中池さんに現地の様子を聞いた。

 -帰国前のガザの状況は。

 「1月19日から一時停戦になり、ガザに入ったのが28日。建物は破壊し尽くされ、多くの住民がテント暮らしだった。夜は冷え込むが電気は止まり、暖を取る手段がなかった。南部ハンユニスのナセル病院で整形外科と熱傷の病棟を担当し、爆撃による骨折患者などを受け入れた。現地の同僚の話では、低体温や凍傷で運び込まれ、到着時には亡くなっていた赤ちゃんもいたそうだ。子どもや家族を亡くしたスタッフも珍しくなかった」

 -物資は足りていたか。

 「3月初めからガザへ物資を搬入するトラックがゼロになったと聞いた。生鮮食品が高騰し、ガソリンもない。現在も同じか、さらにひどい状況だろう。私がいた整形外科では、金属製の固定具が『武器に使われる』としてイスラエルによる搬入許可が出ず、なかなか手に入らなかった。手術用のガーゼや痛み止めも恐らく足りていない」

 -攻撃再開の前触れはあったのか。

 「3月1日ごろから、人質解放の交渉が難航していて、停戦が破られるかもしれないという情報はあったが突然だった。18日の攻撃再開時は患者が殺到すると覚悟した。想像していたより少なかったのは、半数ほどが搬送時には亡くなっていたからだった」

 -病院も攻撃対象になっている。

 「『病院がテロリストの隠れ家になっている』というのがイスラエルの見解だ。私たちは中立の立場で活動している。誰がテロリストかなんて分からないし、病院に来るのは負傷者ばかりでテロができるような状態ではない。産婦人科や小児科の病院も攻撃にさらされている。あまりに非人道的だ」

 「帰国予定2日前の3月23日昼、宿舎が危ないとの情報が入り、病院からMSF事務所に避難した。その夜、病院がドローン攻撃を受け2人死亡した。翌日には事務所も危険にさらされ、仮設病院のある中部デールバラハに移動。そのまま26日に出国した。宿舎にも病院にも戻れず、同僚に別れも告げられなかった」

 -帰国してからは。

 「鹿児島に戻ったのはちょうど花見の季節。ガザでは草花を一度も見なかった。自分だけが安全な日本にいる罪悪感のようなものにとらわれ落ち込んだ。『See you tomorrow』と言い合っても、その人と明日また会えるのか分からない。それがガザの日常だ。今もスローモーションのように浮かんでくる。子どもを含め何の罪もない人たちがどんどん死んでいっている。早く停戦してほしい」

【略歴】なかいけ・ともみ 1982年生まれ。れいめい高校、国立病院機構九州循環器病センター付属鹿児島看護学校卒業。2015年から国境なき医師団に参加し、南スーダンやイエメン、イラクなどで活動。長崎大学大学院修士課程修了。25年1~3月にガザで活動。帰国後は東京都内の病院に勤務している。いちき串木野市出身。

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