それでも本屋は生まれ変わる――売るだけじゃない、“誰かに会いたくなる場所”が広がっている

2025/05/07 06:03
米永書店の一角であった地元コーヒー焙煎店のワークショップ=指宿市十町
米永書店の一角であった地元コーヒー焙煎店のワークショップ=指宿市十町
 全国の書店が次々と姿を消している。まちに本屋がない空白自治体は、鹿児島県内でも約4割に上る。背景には人口減少やインターネット通販、電子書籍の拡大などがあり、元々利益率の低い経営で収入はさらに細る。県内では書店が生き残りを模索する中、出版4団体は5月から公立図書館や官公庁に本の定価取引を求めることを決めた。書店復興に向け、国も支援に乗り出した。

 指宿市の米永書店は2024年8月、新店舗を十町に移転オープンした。

 店内には高さ5メートルの書棚をしつらえ、取次業者からの配本を続けながら、米永貞嗣代表(59)が従業員らと独自の視点で選んだ絵本や児童書を並べる。交流サイトで紹介すると、市内外から客が集まり始めた。

 新店のコンセプトは「本屋の枠を超えてみんなが来たくなる場所」。地元企業や病院に本棚を有償で貸し、選書や使い方のアレンジを任せるほか、ワークショップやミニライブに使える一角を提供。本を買わなくても客が足を運ぶ場をつくった。

 米永さんは20代の頃、辞書や全集を携えて営業に回った。小言を言いながらも、本を買ってくれた人たちとの交流が、コミュニケーションの場を生み出す下地になったという。

 旧店舗に比べ、客足は2倍に増えた。「どんな存在になりたいかをはっきりさせれば、本屋はまだやっていける」と意気盛んだ。

 鹿児島市名山町のブックス・セルバは、全国紙記者だった店主杣谷健太さん(40)が22年12月に開いた。

 16平方メートルの店内に並ぶ約1400冊の蔵書は、海外文学から絵本や音楽、評論、歌集まで多彩だ。小さな取次業者や地方出版社の情報を基に、杣谷さんの感性で選んだ。中には県内で唯一取り扱っている本もある。「大きな書店があるおかげで、他店とは違う特色が出せている」と話す。

 元々、本好きではなかったという。新しい人生を模索している時、偶然入った書店で面白い選書の棚に足が止まった。「何を選び、棚にどう並べるかで客を引きつける」。そんな本屋の魅力にはまった。

 「物事の見方や考え方は一つじゃない。自分が選んだ本を通して、違う視点から考えるきっかけをつくる場所にしたい」と話す。

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