まだ紙のテスト?――理科は動画で出題、CBTが広げる学びの可能性 でも、操作にはちょっとした壁も

2025/05/09 11:38
デジタル端末を活用し行われた全国学力・学習状況調査=17日、鹿児島市の長田中学校
デジタル端末を活用し行われた全国学力・学習状況調査=17日、鹿児島市の長田中学校
 全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が17日実施され、鹿児島県内は小中学校約670校が参加した。中学理科に、デジタル端末を使いオンラインで出題・解答する新方式(CBT)を初めて導入。多様な出題形式や分析が可能になる一方で、児童生徒は端末の操作の習熟が求められることになる。

 中学理科はアクセスが集中するのを避けるため、各学校の希望に基づき、文部科学省が14~17日の午前・午後に日時を割り振って実施した。鹿児島市の長田中学校は17日、3年生73人が参加。同校では普段から宿題や一部のテストに端末を活用しており、多くの生徒が操作に手慣れた様子で取り組んでいた。

 今回はCBTの特性を生かし、動画を用いた出題も。例えばガスボンベを使ってシャボン玉をつくる実験を動画で見て、プロパンガス、都市ガス、空気を密度の小さい順に並べる-といった問題だ。解き終えた生徒たちからは「動画で実験の様子が分かりやすい」と好意的な意見が聞かれた。

 一方で「問題をスクロールする時、解答済みの選択肢にうっかり触れて答えが変わってしまった」など、注意が必要な場面もあったという。別の学校では「図に直接書き込める紙の方が解きやすい」と戸惑う声も聞かれた。

 タイピングに不慣れだと解答に時間がかかるのではないかと懸念する学校関係者もいる。これに対して、文科省学校DX戦略アドバイザーを務める鹿児島国際大の辻慎一郎准教授(61)は、現行の学習指導要領が情報活用能力を「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けていることを挙げ「タイピングが一定のスピードでできるよう、小学生から計画的に取り組む必要がある」と指摘する。

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 従来の全国学力テストは、同じ日時に、同じ問題を用いるなど、すべての条件をそろえて実施してきた。今回はCBT化に伴い「IRT(Item Response Theory=項目反応理論)」という統計理論を導入した。

 多数の問題の中から、生徒一人一人に異なる組み合わせで出題する。実施日を分散できるだけでなく、1人当たりの問題数を抑えつつ幅広い領域から出題できるため、学力の測定範囲が広がるという。

 テストの正答数(率)は通常、学力だけでなく問題の難易度や配点の偏りなど、さまざまな要因に左右される。IRTによって、そうした影響を抑えた分析が可能になり、教育施策や指導の改善に生かす狙いだ。

 文科省は本年度の中学理科を皮切りに、来年度は中学英語でCBTを導入する。27年度からは全教科で移行し、紙の問題冊子を廃止する予定だ。

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 鹿児島県教育委員会は国に先駆けて、今年1月の鹿児島学力・学習状況調査で全教科をCBTで実施した。今回の全国学力テストには県内の中学校約220校、1万4300人が参加したが、トラブルの報告はなかったという。

 疋田哲朗義務教育課長は「これからはあらゆる仕事で端末を活用する力が求められる」と話し「(文科省が提供する学習用プラットフォーム)MEXCBT=メクビット=を普段から活用して慣れてほしい」と呼びかけた。



 CBT(Computer Based Testing)の略。紙の冊子を用いた筆記方式の調査に対し、コンピューターを利用して出題・解答する。採点や児童生徒の解答データの蓄積・分析が容易になるだけでなく、拡大文字やルビ振りなどが可能で、特別な配慮が必要な子どもにも対応しやすいといった利点が見込める。

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