校庭に建てられたハウスで栽培されているコチョウラン=薩摩川内市東郷町斧渕
閉校した鹿児島県薩摩川内市立の小中学校跡地を、民間の事業者が借りて活用する動きが広がっている。新たな雇用や地域の活性化につながるほか、維持・管理の経費も抑制できるとして、市が補助金など支援制度を拡充していることが背景にある。
東郷地域の旧東郷中学校跡地グラウンドには、10の連棟ハウスが立つ。高さ5メートル、面積は計約3300平方メートル。中で行われているのは、台湾から輸入した5万株のコチョウラン栽培だ。
閉校した2019年の翌年、この地に本社を置く「Credo」が事業を始めた。広く平らな校庭にはハウスの土台を建設しやすく、各ハウスをつなぐ直線100メートルの通路も設置できるというメリットがあった。体育館も出荷場として使用している。
従業員35人の大半を地元から雇用し、出荷に使うダンボールケースの組み立てなどは市内の就労支援施設に依頼している。出荷場には格安で購入できる直売所があり、市民にも人気という。佐藤誠統括部長(43)は「栽培は順調。さらに生産量を増やし、出荷先を広げたい」と意気込む。校舎跡にはテナントとして、女性専用のフィットネスクラブも入る。
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市は16年4月に「遊休公共施設等利活用促進条例」を制定。市所有の土地・建物の譲渡や貸し付けが、それまでより大幅に減額できるようにした。17年には閉校跡地に特化した項目を追加。増改築にかかる費用の2分の1(上限1億円)を補助するなど拡充。厳しくなると予想される財政状況を踏まえ、維持・管理の経費削減も目的にする。
04年の9市町村による合併時にあった小中学校63校は、現在は新設の義務教育学校などを含め34校。半数近い31校が閉校した。
市は地元による利活用の意思がないことを確認後、事業者向けに紹介している。現在は保育施設への転用といった公的に使われる4校以外に、7校を民間事業者が活用している。市財産マネジメント課によると、雇用はテナントも含めて100人以上。さらに別の3校で、民間による宿泊施設などの開業準備が進んでいる。
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新事業で地域と積極的に交流しているのが、東郷地域の南瀬小跡に19年に開業した研修施設「イタックス南瀬スクエア」だ。外国人技能実習生が約1カ月間、基本的な日本語などを学んでいる。3階建ての旧校舎の1階を職員室や教室、2、3階は実習生の生活や宿泊のフロアに改修。24年度はインドネシアやベトナムなどから約130人を受け入れた。
いったん人がいなくなった学校ににぎわいが戻ったと、地元の南瀬地区コミュニティ協議会は歓迎する。郷土菓子の「初午(はつうま)だんご」作りや夏祭りなどに実習生を招き、交流している。大野和美会長(70)は「研修期間は短いが、交流で文化に触れてもらいたい」と話す。
施設側も管理する体育館や校庭を、地元の要望があれば積極的に貸し出している。今月下旬にもグラウンドゴルフ大会を開催する予定だ。
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祁答院地域では23年度末に小学校が統廃合され、3校の跡地が新たに活用対象となった。これを受けて市は当初は同年度で終了予定だった支援制度を6年延長し、29年度まで継続する。文部科学省のホームページにも掲載され、全国の企業から問い合わせが来ているという。
一方、活用案がなかった学校は、施設の老朽化や耐用年数をもとに計画的に解体を検討する。更地にして分譲団地や宅地、次世代エネルギー関連用地といった活用を視野に入れる。24年度には旧東郷小学校が取り壊された。
ただ、市としては既存施設の利活用を優先する考え。同課の村田真一郎課長は「学校は地域の核としてににぎわった場所。再び人が集まり、活気を取り戻せるよう支援制度の周知に努めたい」と話した。
■原発事故への備えにも
薩摩川内市の滄浪、寄田の両小学校跡は、いずれも九州電力川内原発から5キロ圏内にある。重大事故に備え、自力での避難が難しい地元の人たちが一時的に屋内退避する施設として整備されている。
両校は2012年に閉校した。市は体育館のステージ部分を改修し、放射線防護のため鉛が入った扉や壁を設置。フィルター付きの換気装置や非常用発電設備もあり、放射性物質を除去した空気を取り込める。滄浪30人、寄田52人を収容でき、4日分の食料や生活物資を備蓄している。
施設の鍵は、地元のコミュニティ協議会と担当の市職員が一つずつ管理する。緊急時にすぐ駆け付けられないことも想定し、寄田小では鍵の入った箱を遠隔で解錠できるシステムを試験的に導入している。
両校の体育館以外の部分は宿泊施設にする計画があり、滄浪小では7月開業に向けて工事が進む。手がけるのは福岡市の不動産会社ベーシック。原発の定期検査で訪れる作業員らの利用を見込み、シングル24室と8人収容できる大部屋を整備する。甲斐田基樹代表(35)は「校章や黒板は思い出を感じられるよう残している。防災訓練への協力や校庭を使ったイベント実施などでも地域に貢献したい」と話した。