鹿児島県警・元生安部長の告発は「公益通報」に当たるのか――「通報者保護の是非」争点、裁判所がどう踏み込むかに注目

2025/05/22 06:30
鹿児島県警が開示した「枕崎署員の盗撮事件」に関連する事件指揮簿
鹿児島県警が開示した「枕崎署員の盗撮事件」に関連する事件指揮簿
 鹿児島県警の元・生活安全(生安)部長(61)が県警の不祥事を記した文書を札幌市のフリーライターに郵送し、職務上知り得た秘密を漏らした疑いで逮捕、起訴された事件は、「公益通報」に当たるかどうかが争点の一つになる。元生安部長は「野川明輝(前)本部長が職員の犯罪行為を隠蔽(いんぺい)しようとした」と主張。県警側は全面的に否定し、公益通報と認めていない。連載「検証 鹿児島県警」の第4部は、事件の背景や類似事案から公益通報の現在地を探る。(連載・検証 鹿児島県警第4部「公益通報の現在地」⑤より)

 国家公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴された鹿児島県警の元生安部長は、「公益通報」を争点の一つとして無罪を主張している。逮捕から間もなく1年たつが、動機に関わる未解明の部分が残ったままだ。

 「私は捜査指揮簿に迷いなく押印し、野川明輝(前)本部長に指揮伺いをした。しかし、本部長は印鑑を押さなかった」。元生安部長は、枕崎署員の盗撮容疑が浮上した直後、前本部長自らが指揮を執るための公文書があったと明言している。しかし、県警側は「そのような指揮簿が作成され、元生安部長が押印した事実はない」と否定している。

 南日本新聞が県警に公文書開示請求し、今年2月に一部開示された文書には、元生安部長の主張と合致する指揮簿は含まれていなかった。結果的に、どちらかの説明が虚偽となることが明らかになった。

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 指揮簿の有無に注目が集まるものの、裁判で存否をはっきりさせるかどうかは不透明だ。起訴状などによると、元生安部長が問われている罪は、霧島署員によるストーカー規制法違反容疑事件の捜査情報と、その被害女性の実名や年齢などの個人情報を漏らしたという点に絞られている。

 取材を踏まえると、主な論点は三つある。一つ目は、県警が別事件で報道機関を家宅捜索し、元生安部長作成の文書も証拠として収集したことの違法性の有無。二つ目は、元生安部長が漏らしたとされる内容が国家公務員法の保護する「秘密」に当たるかどうか。三つ目は、元生安部長の行動は公益通報またはそれに準ずるものとして正当な行為と認められるか、ということだ。

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 元生安部長は公益通報者として保護されるのか。法律では「他人に損害を加えるなど不正の目的でないこと」「真実と信じるだけの相当な理由があること」などを要件とし、「他人の正当な権利の尊重」も努力義務に課している。

 問題の文書には、当時県警が公表していない複数の不祥事が記されていた。一方で、枕崎盗撮事件について「隠蔽(いんぺい)するよう指揮した人物は(元)刑事部長」と書き、その名前や連絡先も記入していた。

 通報内容が「一定の法令違反行為に当たる」と認められるかどうかも要件となる。これまで、一連の経緯を知った市民が、前本部長らに犯人隠避などの疑いがあるとして、少なくとも2件刑事告発しているが、鹿児島地検はいずれも不起訴処分にした。

 裁判の日程は具体的には固まっていないが、初公判が今夏までに開かれる可能性は低いとみられる。元生安部長の訴えが「公益通報」に当たるか否かは、専門家でも「判例がなく検討が難しい」と明言できていない。裁判所が保護の是非についてどう踏み込むかに関心が高まっている。

=第4部おわり=

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