先輩の豹変ぶりにほんろうされ始まった大学生活
男子寮でのルールを地獄のオリエンテ-ションで徹底的にたたき込まれた日の夜。部屋に戻り、相部屋の住人と喋ってると誰かがドアをノックした。恐る恐るドアを開けると、そこには先ほど大声で怒鳴り散らしてた2年生が大きな紙袋を持って立っていた。
「こんにちはああああ!」。反射であいさつする。
「ははは。そんなに緊張せんでいいよ。座って座って。さっき大変やったやろ?」
軍隊の鬼教官だったような2年生は別人の様にニコニコしていた。
「俺らも1年の時くらったわ~。今日はお疲れさん。すぐ慣れるから。とりあえずこれでも食べや」
紙袋を差し出してきた。中には大量のハンバーガーとポテトが入っていた。ハンバーガー、ポテト、チキンナゲットのセットが10セットほど入っていた。それを3人で食べながら出身地の話や、高校の時の部活の話で盛り上がった。2年生は優しかった。異様なほどに。
男子寮の生活が始まり1カ月がたった。時々、夜の10時ぐらいに、僕ら1年が住む4階のブザーが鳴り寮内放送が流れることがある。
ブー。
「今から4階に行くから1年は廊下に並んどくように」
この放送が流れると、急いで1年は部屋から出て廊下の両端に「気をつけ」の姿勢で並ばなくてはならない。程なくあの時の優しい2年生が3階から上がってくる。
「おい!1年!今日校内であいさつしなかったやつがいたらしいな!しっかりあいさつせえええええよ!」
「はい!」
鬼教官モードの2年生が帰っていく。その5分後。ドアがノックされる。ガチャ。そこにはさっきの2年生がニコニコしながら立っている。
「なあ。今からラーメン行こうや!」
こんなことが繰り返される日々の中で僕は見てしまった。男子寮に帰ってくるのが遅くなったある日の事だ。
寮には玄関を入るとすぐ右奥に役員室という部屋がある。男子寮の運営を任されてる9人の役員と、呼ばれる寮生しか入れない部屋である。窓がついており、そこから役員の1人が寮生の出入りを見張っていて、出入りの際に、寮生は必ず役員に「こんにちは!」とあいさつをしなければならない。
その日は窓に役員がいなかった。ただ部屋の明かりはついていて中から「はいっ!」という大きな声が聞こえてくる。僕は中をのぞくことにした。ズタボロのハッピを着ている役員が机に並んで座っていた。そして役員の前に1人の寮生が立たされていた。真ん中に座っている寮長らしき人物が怒鳴る。
「今日、1年であいさつしなかったやつがいたぞ!ブザー鳴らすから今から行ってこい!」
「はい!」
返事をしていたのは、あのハンバーガーをくれた2年生だった。
つづく