冷却プレートを内蔵したベスト=鹿児島市卸本町のセンコウ
今年の夏も厳しい暑さが予想される中、6月1日から職場での熱中症対策が罰則付きで義務化される。「既に対策済み」「現場管理に不安」と、鹿児島県内の事業者の反応はさまざまだ。熱中症による労働中の死傷者は県内でも多く、ファン付き作業服など対策グッズを扱う専門店には問い合わせが相次いでいる。
5月下旬、法人向け作業着を販売するセンコウ(鹿児島市)の会議室には、色とりどりのジャケットやベストが並んだ。この時季恒例となった熱中症対策製品の展示会。下池周作社長は「建設業を中心に、昨年の同じ時期と比べ5倍以上の照会がある」と明かす。
ジャケットにファンが付いた服のほか、最近は充電式の冷却プレートを内蔵したベストが人気で、火を扱う現場などでも体を冷却できる。気温や湿度などから熱中症リスクを測る「暑さ指数計」の引き合いも多い。
鹿児島労働局によると、2024年の県内労働者の熱中症死傷者は38人で、前年から約2.5倍と急増した。業種別では屋外での作業が多い建設業が最多の7人。下池社長は義務化も一因とした上で、「そもそも異常な暑さ対策として購入する事業者も多い」と見る。
施行される改正労働安全衛生規則の柱は、熱中症の可能性がある労働者をいかに早期発見できるか。重篤化防止のための「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」を事業者に求める。屋外や屋内問わず、暑さ指数が28以上か、気温31度以上の環境で連続1時間以上または1日4時間を超える労働が対象だ。
「建設業ではほぼ全ての現場が当てはまる」と苦笑いするのは、道路工事などを手がける坂本建設(同市)の折田勝弘安全部長。数年前からファン付き作業服のほか、経口補水液やゼリー飲料を従業員に支給し、小まめに補給できる環境を整える。「(規則改正は)いまさら感はある。規模の大きな県内の事業者はもう対策している」
一方で、別の企業担当者は、下請けや個人事業主ら複数の事業者が入る現場への不安を漏らす。そもそも労働安全衛生法では、元請けには労災防止義務がある。業界は高齢化が進み体力も個人ごとに異なるため、「全員が同じ認識の下で動けるのか。実際に患者が出ないと分からない」と不安を口にした。
事業者が対策を怠った場合、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される。鹿児島労働局健康安全課の秋山芳徳課長は「暑さに体が慣れていない6月もリスクは高い。緊急時のマニュアルを策定しつつ、現場では臨機応変に対応してほしい」と呼びかけた。