入院先にまで酒を持ち込み、就職先の保育園では園児の靴箱に焼酎を隠した…アルコール依存症の私、自助グループに参加して新しい生き方を探せると感じた

2025/05/31 17:00
依存症者の体験談を聞く参加者ら=18日、鹿児島市精神保健福祉交流センター
依存症者の体験談を聞く参加者ら=18日、鹿児島市精神保健福祉交流センター
 長期間酒を飲み続け、飲酒を制御できなくなる「アルコール依存症」。鹿児島県内では約6000人の患者がいると推計され、専門医は「誰でもなりうる身近な病気」と警鐘を鳴らす。患者は依存症とどう向き合い、回復を目指しているのか。体験を語り合う当事者たちの会合に立ち会った。

 「子どもが生まれてもやめられなかった」「寂しさを埋める唯一の手段だった」-。18日、鹿児島市の精神保健福祉交流センターで、12人の男女が酒に苦しんだ過去を明かした。「酒をやめたい」と集まった県内の自助グループ「AA鹿児島地区」(無名のアルコール依存症者たち)のメンバーたちだ。

 依存症からの回復に有効とされるグループミーティングで、客観的に過去を振り返り、依存症になった原因を分析する。同じ境遇のメンバーと時間を共有することで、断酒のモチベーションを高められるという。

 この日は、県内19グループのメンバーらが参加する全体会。鹿児島市の40代男性は「AAに入った当時は酒をやめる気がなく、酒を違法にしてくれと願っていた」と振り返る。飲酒をやめて9カ月がたち、「仲間と語り合う中で生きる希望を見つけた」と表情を緩ませた。

 参加者は原則匿名で、ニックネームを名乗る。「言いっぱなし、聞きっぱなし」が基本。周囲は時折うなずき、静かに見守った。

 アルコール依存症は、身体的・社会的問題が出ているにも関わらず、飲酒をやめられない病気だ。不安や恐怖など心理的苦痛から逃れるため、飲酒を繰り返す人も多い。

 代表の40代女性は「家族と離別するなど孤立している人も多い。無理に話さなくてもいいので、気軽に参加して」と話した。

 県の依存症専門医療機関、森口病院(鹿児島市)の田中大三院長は「アルコールを摂取し続けると、理性を働かせる脳の前頭葉が萎縮する。断酒で改善するが、一度依存症になると、飲酒をコントロールするシステムは元に戻らない。酒をやめられず事故や病気で亡くなる人もいる」と説明する。

 自助グループに継続的に通うことで回復率は高まるという。同院でもグループミーティングや、思考を見直す認知行動療法を採用して依存症の克服を図る。田中院長は「回復するには新たに目的を見つけることが重要。楽しく生きるために、酒が邪魔になったという考え方ができるようになるのが理想的だ」と話した。

■断酒は「トイレを我慢する感覚」…元依存症男性語る

 2016年に依存症者の自助グループを立ち上げた鹿児島市の40代男性は、断酒のため入院した病院にまで酒を持ち込み、脱走を繰り返した経験を持つ。

 若い頃から人の顔色をうかがう癖があった。「酒を飲むと、素直な気持ちを話せた」。福岡県の短大に進学し、休日は朝から飲み続けた。20歳で同県の保育園に就職したが、職場でも酒を口にする毎日。焼酎を園児の靴箱に隠していた。

 やがて親に状況を知られて帰郷。父に促され入院したものの、頻繁に外出しては酒を購入し、ポケットにしのばせて病室に戻った。

 断酒は「トイレを我慢するような感覚」だった。だが、涙を流す母の姿に一念発起。退院後、病院の紹介で自助グループの集まりに参加し、「ここなら新しい生き方を探せる」と感じた。

 酒をやめて9年がたつ。「仲間との信頼関係があるから飲まずにいられる」

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