「東京ならEVバス購入に4000万円補助が出るのに」…嘆く地方のバス会社は中古でやりくり

2025/06/09 08:00
休日の南国交通鹿児島営業所で運行前の路線バスを磨く運転手=5月9日、鹿児島市小野町
休日の南国交通鹿児島営業所で運行前の路線バスを磨く運転手=5月9日、鹿児島市小野町
 鹿児島県内の路線バス事業者が苦境にあえいでいる。「ドル箱路線」で稼ぎ、地方の赤字路線をカバーする経営モデルは2000年代初めの規制緩和で崩壊。利用低迷が続く中、運転手不足対策、車体更新、サービス向上と取り組むべき課題は少なくない。公共交通機関としての在り方を模索する事業者の本音や苦悩を紹介する。(連載かごしま地域交通 第3部「事業者の苦悩」⑤より)

 5月上旬、鹿児島市小野町の南国交通鹿児島営業所では乗務前の運転手がバスの側面を丁寧に磨いていた。並ぶのは製造から15年以上たったバス。車体の手入れが行き届いていることもあり、古くささは感じられない。

 運転手一人一人に車両を振り分ける担当制を採用している。鹿児島営業所が所有するのは140台。1台を複数の運転手で稼働させる他の事業者より路線維持に必要な台数は増える。ただ1台当たりの走行距離を減らせる分、車体は長持ちする傾向にある。

 ドライバー歴が長いほど新しい型式を担当できるようにし、乗降口の段差がなく低床のノンステップ式や操作が簡易なオートマチック車になる。「長く勤めれば新しい車に乗れるという、ちょっとした目標にもなる」。こう担当者は説明するものの、容易に新車の更新ができない事業者の事情も透けて見える。

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 南国交通は県内全営業所で300台の路線バスを保有する。製造20年以上の車両を対象に年5~10台を新車で更新してきたが、直近は5年前の2020年。新型コロナウイルスの影響による経営悪化で投資に回せなくなった。

 コロナ以降の更新は、関東地方で活躍した中古車両に切り替えた。改造費を合わせ1台700万~800万円。3000万円ほどする新車の4分の1まで抑えられる。一方、製造から15年超の型落ちのため、整備費増や燃費悪化といった懸念は残る。

 472台の路線バスを保有する鹿児島交通も更新は関東方面の中古車両だ。長引く利用低迷に伴う財政状況を考慮して20年前に始めた。西村将男副社長は「新車を入れた方が会社としてのステータスは上がるかもしれないが、乗客を安全に運べれば特にこだわりもない」と話す。

 鹿児島市交通局は所有する135台のうち、製造23年以上か走行距離80万キロ超の車両を対象に新車で更新する。減価償却費や企業債の利子返済には市の一般会計から繰り入れがあり、自己負担が抑えられる。バス事業課は「公営企業として公平性を保つため車両購入は一般競争入札としている。随意契約となる中古での更新は今後も予定がない」。

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 JR九州バス鹿児島支店は昨年10月の更新時、低床の新車2台を導入。うち1台は国鉄時代のデザインを復刻し注目を集めている。路線バス全10台はノンステップとなった。永里克志支店長は「バリアフリーの対応や話題性も含め、バス利用に抱くハードルを少しでも下げたい」と語る。

 県内で唯一の北薩線(鹿児島-宮之城・郡山)は赤字路線。「正直、行政の補助がなければ新車を投入できたのかも怪しい」と永里支店長。他の民間事業者は所有台数が多く初期投資も大きいため、補助があっても新車購入には消極的とならざるを得ない。

 「東京都のように裕福な都市はEV(電気自動車)バスに単独で1台4000万円の補助を出している」。鹿児島交通の西村副社長は国内の格差を嘆く。「地方のバス会社は2、3000万円の車両に手を出せない。もっと全国一律で補助制度を考えてほしい」

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