紫原団地を走る鹿児島交通の路線バス=鹿児島市
鹿児島県内の路線バス事業者が苦境にあえいでいる。「ドル箱路線」で稼ぎ、地方の赤字路線をカバーする経営モデルは2000年代初めの規制緩和で崩壊。利用低迷が続く中、運転手不足対策、車体更新、サービス向上と取り組むべき課題は少なくない。公共交通機関としての在り方を模索する事業者の本音や苦悩を紹介する。(連載かごしま地域交通 第3部「事業者の苦悩」⑦より)
鹿児島市内最大の団地で利用者も多く、市バスの「ドル箱路線」とされていた紫原地区。2008年に鹿児島交通が参入し競合路線となると、朝夕は待たずに乗れるくらいの間隔でバスが来た。
規制緩和が目指す自由な競争は長くなかった。市バスは沿線の人口減による利用低迷や民間との競合もあり、08~18年度で年平均5億1000万円の赤字が続いた。財源規模に対する資金不足比率は上昇傾向で、公営企業が大幅な事業見直しを迫られる経営健全化団体の基準(20%)を20年に超す見通しに陥った。
市の交通事業経営審議会は18年3月、「民間に一部路線を移譲し、事業規模を縮小すべき」と答申。市交通局は19年7月、鹿児島交通、南国交通とバス路線移譲の基本協定を結ぶ。前者に谷山と紫原、後者に吉野と明和方面の競合路線を託すことになった。
長年親しんだ運行事業者の変更に利用者が困惑しないよう協定にはこう明記された。「可能な限り運行経路や便数は3年間維持する」
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移譲は20年4月にスタート。市交通局によると、全1559便のうち、鹿児島交通に350便、南国交通には21年までに344便を移した。路線数が半分に圧縮され経営改善を図りやすくなる交通局、「民間のやり方で黒字化できる」と踏む2社、移譲後も従来のサービスが保証される利用者と、「三方よし」となるはずだった。
各者の思惑は当初からつまずく。新型コロナウイルス流行と重なったのだ。移動制限や高齢者の外出控えで利用者は激減し、感染を恐れて離職する運転手も相次いだ。
多くの路線を引き継いだ民間側は22年4月のダイヤ改正を皮切りに減便が続く。25年4月時点で鹿児島交通が178減の172便、南国交通が161減の183便。5年で半減した。市交通局の上久保泰次長は「運転手不足は全ての事業者が直面する課題で減便はやむを得ない。協定にある(路線維持期間の)3年も過ぎた」と理解を示す。
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市交通局は路線移譲に伴い車両76台を処分。21年度までの3年間で運転手154人のうち73人を交通局内で配置転換したり、市長部局などへ出向させたりした。23年度市バスの経常赤字は5億487万円。バス維持費や人件費の削減で赤字を1億5000万円圧縮したと試算し「効果はあった」とする。
市バスが100円稼ぐための経費を示す営業係数は23年度170.03円。移譲前19年度の168.55円より増えた。燃料高もある中、赤字体質脱却は容易ではない。
市交通局の経営計画では26年度までに市バスの赤字が縮小し、市電の黒字と合わせて全体の収支均衡を図る予定だった。実際には23年度の経常赤字は3億9400万円で、計画の2億8800万円と1億円ほど開きがある。
災害時の住民避難などでバス活用を見込み、一定の車両・運転手を確保するため、これ以上の民間移譲はないとされる。「市民の足を守るため増収に取り組む」とする市交通局は、7月のダイヤ改正で利用実態に即した効率的運行体制づくりを目指す。