コロナ禍過ぎても戻らぬ乗客…路線バス離れに歯止めを、「金額式定期券」に事業者は期待

2025/06/09 21:30
鹿児島交通が4月に新設した星ケ峯団地行きの路線バス=5月29日、鹿児島市千日町
鹿児島交通が4月に新設した星ケ峯団地行きの路線バス=5月29日、鹿児島市千日町
 鹿児島県内の路線バス事業者が苦境にあえいでいる。「ドル箱路線」で稼ぎ、地方の赤字路線をカバーする経営モデルは2000年代初めの規制緩和で崩壊。利用低迷が続く中、運転手不足対策、車体更新、サービス向上と取り組むべき課題は少なくない。公共交通機関としての在り方を模索する事業者の本音や苦悩を紹介する。(連載かごしま地域交通 第3部「事業者の苦悩」⑧より)

 鹿児島市広木に住む女性(83)は、通院や友人との交流には敬老パスを使ってバスで出かける。「新型コロナウイルスが流行していた頃は友人が外に出たがらず、外出が減った。年齢もあって、その後も頻度は増えていない」

 市長寿支援課によると、70歳以上が使える敬老パスの交付数は11万5000枚(2023年度)。バスと市電の総利用回数から算出した敬老パスの1人当たり月利用数は、移動制限があった20年度に3.02回で、19年度4.3回から落ち込んだ。21~23年度も3~3.01回とほぼ同じ。この10年ほどでみると14年度5.56回の半分程度になった。

 ちなみに市営・民間を合わせた23年度バス利用は314万1000回。コロナ前19年度422万7000回の8割に届かない。市電が101万3000回と19年度の101万9000回近くまで戻ったのとは対照的だ。

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 長らく利用低迷に苦しんできたバス事業者は、コロナを経て運転手不足に拍車がかかった上、残業規制が強化される「24年問題」にも対応してきた。運行態勢の見直しが迫られる中、利便性確保に腐心している。

 南国交通は4月、「金額式定期券」を導入した。設定運賃内の同社路線で自由に乗り降りできる。年度をまたぐ3月21日~4月10日の販売分をみると、通学用は51%、通勤用は27%が金額式を選んだ。周知が進めば割合はさらに増えると期待する。

 山田誠常務は「運賃値上げや減便で負担増となった乗客をサービス向上でつなぎ止める必要がある」と説明する。人口減少による長期的な乗客減は予想していたものの、コロナ禍による打撃は「想定以上。減少度が5年は早まった感じ」という。一層のバス離れを防ぐため定期券利用者という固定客へのアピールを重視する。

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 鹿児島市は24年度に地域公共交通移動実態調査を実施。15~89歳を対象に無作為抽出の市民や路線バス利用者にアンケートし計1516人の回答を得た。

 平日の外出手段の割合は「路線バス」が12%。「自分で運転する自動車」58%の次だった。よく行く目的地までの手段を乗り継ぎも含めて全て聞いた。主な手段を一つだけ聞いた前回調査(20年)ではバス11%、自動車63%。同じ条件の比較ではないが「ほぼ変化がない」と分析し、バスを「市民生活に欠かせない交通手段」とまとめた。

 各交通機関への不満点や利用しない理由を聞いた設問(複数回答)もあり、バスに対しては「運行本数が少ない」24%、「乗りたい時間帯に運行されていない」16%、「最終便の時間が早い」8%の順に多かった。

 鹿児島交通は今年4月、ダイヤ改正した。全体では減便する中、市内の団地と中心部を結ぶ路線で朝の通勤通学時間帯と午後8時以降の便を増やした。市から委託されたコミュニティーバスの運行撤退などで生じた人員を振り分けた。「運転手さえ確保できれば、もっと需要に応えられる」と西村将男副社長。乗客数が回復する余地は十分あるとみている。

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