熊本市中心部にある桜町バスターミナル。共同経営による見直し路線を含め多くの便が発着する=4月30日、熊本市中央区桜町
鹿児島県内の路線バス事業者が苦境にあえいでいる。「ドル箱路線」で稼ぎ、地方の赤字路線をカバーする経営モデルは2000年代初めの規制緩和で崩壊。利用低迷が続く中、運転手不足対策、車体更新、サービス向上と取り組むべき課題は少なくない。公共交通機関としての在り方を模索する事業者の本音や苦悩を紹介する。(連載かごしま地域交通 第3部「事業者の苦悩」⑨より)
熊本市に本社を置く九州産交バス、産交バス、熊本電気鉄道、熊本バス、熊本都市バスの5社は2021年4月、バス運行の共同経営を始めた。開始前の3月、国土交通省が全国で初めて認可した。
路線や便数を調整する共同経営は本来、カルテルに当たり独占禁止法で規制されている。利用者減や運転手不足で単独での路線維持が厳しくなっている地方のバス会社に対し、規制を除外する特例法が20年に成立していた。
熊本市は市交通局を含む官民4事業者が競合し全国でもバス激戦地とされてきた。共倒れの懸念から、市は民間3社(九州産交バス、熊本電気鉄道、熊本バス)がつくる受け皿会社・熊本都市バスへ14年度までに路線移譲した。
その後も市を中心にバス事業の在り方を探る中、各社は公共交通網の維持にはもう一歩踏み込んだ対応が必要との認識で一致。20年に共同経営準備室(のち推進室へ移行)を設置し課題を探ってきた。
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まず重複している運行区間見直しとして、市中心部に市内外から乗り入れる4方面55系統の調整に着手した。便数や乗客が少ない路線を便が多い事業者へ移譲したり、需要に合う区間短縮や増減便をしたりして運行効率化と待ち時間の平準化を図った。
重複見直しによる5社合計の収支改善効果は初年度9000万円、運転手6人分の省人化となった。22年度は55系統以外でも運行効率化を進め、2500万円、5人分の低減につなげた。23年度までに想定の1.6倍の効果があった。
増客策では22年度にIC共通定期券を導入、全社のバスに乗れるようにした。23年度は市電より割高だった市中心部の運賃を市電と同じ180円にし、バス利用増加と市電の混雑緩和を図った。
新型コロナウイルス禍で20年度1922万人となった輸送人員を、30年度3934万人に伸ばす「利用者2倍増」計画も進行中だ。通勤、通学、私用、高齢者向けに分け、台湾積体電路製造(TSMC)進出で渋滞する工業団地向けの実証運行や各種施設と連携した割引に取り組む。
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共同経営といっても売り上げを一度まとめて各社に配分する「運賃プール」式でなく、便を運行する事業者が運賃を受け取り経費を負担する。
21年度の開始後、収支が改善したとはいえ、5社の路線バス事業は23年度で計36億円の赤字。国や自治体から計35億円の補助を受けても1億円ほど足りない。不足分は各社が別の事業の収益や借入金で穴埋めしているのが実情だ。
市OBで副市長も務めた共同経営推進室の高田晋室長(70)=熊本都市バス社長=は「共同経営の効果は上がっているが、事業者の深刻な経営状況に対しては限定的。官民連携で利用者をさらに増やす必要がある」と強調する。
自動車からバス利用への転換を促す鍵は公的投資だとし、乗り継ぎ拠点の整備やバス専用レーンの拡大、通学定期の購入補助といったハード、ソフト両面の充実を求める。
=おわり=