南九州市の真栄ファームで育てる黒さつま鶏。コメを含む配合飼料を与えている(同社提供)
「令和の米騒動」のあおりを受け、焼酎などの加工用米や家畜の餌に使う飼料用米の不足が懸念されている。主食用米の高騰により、加工用米からの転作が進むほか、政府の備蓄米放出の影響も気がかりだ。鹿児島県内の関係者は「生産が続けられるか」「先行きが分からず対策しようがない」と情勢を注視する。20日投開票の参院選は、コメの安定供給策が問われそうだ。
「焼酎造りに欠かせない麹(こうじ)米の確保と値上がりに苦慮している」。県酒造組合の浜田雄一郎会長は、昨年から続くコメ高騰に頭を抱える。本格焼酎など日本の「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録され、「これから」という機運にも水を差す。
県内では今季、麹米の仕入れ値が2023年と比べ2倍以上に急騰した。夏場の仕込みシーズンを前に減産や値上げなどの判断が迫られる中、ビールやウイスキーの競合を考えると、安易に価格転嫁にも踏み切れない。「今年の焼酎造りを諦める蔵元が出てもおかしくない」と危惧する。
農林水産省がまとめた4月末時点の作付け意向によると、県内の主食用の作付面積は前年に対し、おおむね横ばいか増加傾向。一方で、加工用や飼料用などは減少する。背景には、主食用の買い上げ単価の目安となり、コメの集荷時にJAが農家に代金を仮払いする「概算金」の高騰がある。
政府は過剰生産を防ぐための減反政策を推進し、加工用米は転作対象の一つだった。加工用の単価は以前から低いものの、作付けに応じて支払われる国などの交付金により収入は主食米とさほど遜色なかった。
ただ24年産は、普通期の玄米60キロ当たりの概算金が前年比2倍の約2万6000円だったのに対し、加工用は数百円増の約9000円にとどまる。県内の集荷業男性は「農家の苦境を考えれば転作は仕方ない。国が急騰した主食用米との差額を補填(ほてん)しないと、加工用は誰も作らなくなる」と訴える。
政府はコメを毎年21万トンほど買い入れ、常に100万トン前後を備蓄し、5年持ち越したコメは飼料用や加工用として安価で払い下げてきた。これまでの放出により、現在の残りは20年産の約10万トン。もし、払い下げ分がなくなれば、影響を受ける業界は少なくない。
鹿児島の地鶏「黒さつま鶏」生産・加工販売の真栄ファーム(南九州市)は、肉質にこだわり、コメや穀物などの配合にこだわる飼料を与えている。5500羽~6000羽の配合飼料は月に15トン以上となる。
和田真弥社長(42)は「(備蓄米は)不測時のためのコメだから、手に入らないのは仕方ない」と理解を示すものの、今後は払い下げが入手できない状態もあり得る。「代替飼料や配合の割合を変えることを真剣に考えないといけない」
小泉進次郎農相は、無関税のミニマムアクセス(最低輸入量)による輸入米で加工用の充当を目指す。ただ、地理的表示(GI)保護制度に登録される霧島市福山などの「鹿児島の壺(つぼ)造り黒酢」は、原料を「県内産米または国産」とする。7社でつくる県天然つぼづくり米酢協議会は「表示を守るためにもコスト上昇は避けられない」と嘆いた。