大新の関連会社が運営する志布志養鰻場。来年以降に出荷されるウナギを育成中だ=17日、志布志市
19、31日の「土用の丑(うし)の日」を前に、鹿児島県内でもウナギ商戦が本格化している。全国的なシラスウナギ(ニホンウナギの稚魚)の豊漁で値下がりが期待される中、成育には一定程度の時間がかかるため今夏は前年並みとなりそうだ。人工種苗生産の研究も進み、今後は手頃に楽しめそうに思えるが、高騰が続く養殖費用などに加え、輸入ウナギを規制する動きもあり、先行きは見通せない。
鹿児島市の「うなぎの末よし」では、記録的な高値だった2023年同期と比べ、直近の仕入価格は500円ほど安い1キロ4930円。ただ、うな重に欠かせないコメの高騰もあり、利益率は前年以下にとどまる。客離れを懸念し、店頭価格は据え置いている。
「仕入れ値は若干下落したけどコメ価格は倍以上」と嘆くのは、「うなぎのふじ井」(同市)の藤井滋人社長(41)。1月に値上げしたばかりで、今はおかわり回数を制限したり、メニューを増やしたりと工夫する。人件費も上がっており「高止まりは続きそう」。
県水産振興課によると、県内の24年度漁期のシラスウナギ採捕量は2.5トンと35年ぶりの高水準。一時は取引価格相場が1キロ230万円から10万円ほどまで下がった。県内では1年以上育てる「周年養殖」が主流のため、担当者は「安い稚魚の出荷は来年から本格化するだろう」とみる。
豊漁を受け、養鰻(ようまん)業の鹿児島鰻(大崎町)の斎藤裕仁社長(36)は「仕入れは順調」と明かす。現在出荷するウナギは、23年に仕入れた稚魚価格が反映されるため、「相場は秋口から緩やかに下落するのでは」と分析する。
ただ、養殖池の温度を保つための重油をはじめ、電気代や飼料代などは軒並み高騰しており、養鰻業の経営は厳しくなっている。
関連会社が養鰻場を運営するウナギ加工販売業の大新(指宿市)は、出荷ペースや池の余裕を見ながら成育調整するため、豊漁でも大量に仕入れられない。価格に注目が集まる中、中村智代表(69)は「まずは丑の日で在庫がはけるように期待したい」と冷静だ。
稚魚の安定供給に向け、人工種苗の動きも進む。17年に成功した新日本科学(鹿児島市)は水産・食品製造大手のニッスイ(東京)とタッグを組み、現在は和泊町で約3000匹を育てる。将来的に「年間10万匹前後の稚魚生産」を目指す。
一方で、輸入ウナギの供給は見通せない。欧州連合(EU)は6月、絶滅の恐れがあるとして、ニホンウナギの貿易を規制するよう提案した。11〜12月のワシントン条約締約国会議で採択されれば、輸入制限により稚魚やかば焼きの価格が高騰するリスクがある。
日本のウナギの国内供給量約6万3000トンのうち7割は輸入が占める。稚魚も大半を輸入に頼っており、養殖生産量日本一を誇る鹿児島でも、採捕分だけでは必要量を賄えていない。関係者らは「規制されれば経営が成り立たない」と危機感を募らせる。