式典会場で陸上自衛隊のオスプレイの前を歩く在日米軍の幹部ら=7日、佐賀市の佐賀駐屯地
自衛隊の「南西シフト」に伴い、離島を含む九州の防衛力強化が加速している。防衛省は輸送機V22オスプレイの拠点となる陸上自衛隊佐賀駐屯地(佐賀市)を開設。鹿屋市に大型無人機、熊本市やえびの市に長射程ミサイルを配備する計画も明らかにしている。8日には陸自との訓練で米軍のオスプレイが海自鹿屋航空基地に飛来する予定だ。専門家は「自衛隊と米軍の一体化が深まっている」と指摘する。
陸自は7日、佐賀駐屯地で開設記念式典を開き、中谷元防衛相や山口祥義佐賀県知事、在日米軍の幹部らが参列した。中谷防衛相は駐屯地開設によって「南西の守りをより堅固にする」とあいさつ。大臣自らオスプレイにも体験搭乗し、飛行後は報道陣に向かって親指を立てた。
佐賀のオスプレイは4機程度が9日、鹿屋基地に着陸する予定。8日に鹿屋へ飛来が計画されている米海兵隊のオスプレイ7機程度と共に、11~25日に国内である実動訓練レゾリュート・ドラゴンに参加する。中谷防衛相は式典後の会見で「日米連携の能力向上が期待できる。訓練を通じて日米同盟の抑止力、対処力の強化を図る」と強調した。
■過去最大規模
レゾリュート・ドラゴンは過去最大規模の計約1万9000人が参加し離島防衛を訓練する。米軍の最新鋭対艦ミサイル発射装置「NMESIS(ネメシス)」など初投入の装備も多い。
訓練は陸海空に宇宙やサイバーを含めた自衛隊の領域横断作戦と米海兵隊の機動展開前進基地作戦(EABO)を踏まえる。ミサイル能力を高める中国をにらみ南西諸島の島々に小規模部隊を転々とさせ対艦ミサイルを発射する作戦。そのため住民を戦闘に巻き込むリスクも指摘されている。
大東文化大の川名晋史教授(安全保障論)は「『戦争前夜』という印象を持つのは早計」と断った上で「日米のチームビルディングが進み、いざ有事になった際に動けるようになりつつある」と説明する。陸海空の訓練拠点となる西之表市・馬毛島の自衛隊基地整備も進んでおり「馬毛島の基地が完成すれば、九州の基地が使われる頻度は増える。駅ができると周辺の地域が活性化するのと同じだ」。
■標的リスク
政府は近年、瀬戸内分屯地(瀬戸内町)など南西諸島に次々とミサイル部隊を新設してきた。沖縄本島のほかに実戦部隊の配備がなかった「防衛力の空白地帯」を解消するためだ。
2025年度末には「12式地対艦誘導弾(ミサイル)」を改良した「能力向上型」を熊本市の健軍駐屯地に配備する。射程が百十数キロから約千キロに延び、南西諸島を九州から援護する能力が高まる。「能力向上型」は九州からでも大陸の一部が射程に入る。日本は反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つことになり、配備先が標的となるリスクが高まるとの懸念は根強い。
大阪成蹊大学の佐道明広特別招聘(しょうへい)教授(防衛政策史)は「これほど急激に防衛力強化が加速した時代はない。抑止力と対処力強化の名の下に米軍との一体化が進んでおり、特に九州の状況は注視したい」と強調。「民間の港や空港を訓練で使う機会も増えるだろう。都道府県の垣根を越え、自治体は連携して情報共有を進めるべきだ」と話した。