大雨の影響で土台が崩れ線路が宙に浮く肥薩線表木山-日当山間=8月12日、霧島市隼人(JR九州提供)
鹿児島をはじめ全国でローカル線の存続が危ぶまれている。JR各社は区間別の収支や利用状況を公表し、将来の地域交通の在り方を巡り、地元と対話したい姿勢を強調する。近年、自然災害を機に存廃論議に発展するケースも珍しくない。国鉄から引き継がれてきたレールはどうなるのか。鉄路の現状や歩みを振り返る。(連載かごしま地域交通 第4部「きしむレール」②より)
8月8日、姶良、霧島市を中心に降った記録的大雨は鉄道網にも爪痕を残した。JR肥薩線の吉松-隼人(37.4キロ)は山間部で、線路を支える高さ10メートルの土台が50メートルにわたり崩壊。周辺に取り付け道路がなく資材の運搬が厳しいとして「年内の復旧は困難」(JR九州)となった。
列車が運休を迫られる規模の被災は、大雨での線路内への土砂流入や斜面崩壊、河川増水による鉄道施設の流失、倒木での線路故障と多岐にわたる。国土交通省の集計(復旧工事中含まず)では、2023年度から直近5年間に全国で年平均135億円の被害が発生している。
JR九州は「山間部や人口の少ない地域の路線は、治山・治水が不十分な環境にさらされており、被災リスクが大きい」と説明する。古宮洋二社長は8月の会見で、管理外の土地に起因する被災が多いとし「自社での対策が限られる」と厳しい表情を見せた。
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利用者の少ない路線は、被災をきっかけに存廃議論へ発展するケースが珍しくない。20年7月の熊本豪雨で不通が続く肥薩線の八代-吉松(86.8キロ)は、「山線」と呼ばれる人吉-吉松(35キロ)が5年たった今も復旧の見通しさえ立っていない。
国交省によると、被災で1年以上運休が続く鉄道は6事業者9路線。うち一部区間を含め鉄道での復旧が決まっていないか、バス転換の方針となっているのは4路線ある。
災害復旧は事業者負担が原則だ。ただ鉄道軌道整備法に基づき、赤字路線の場合は黒字事業者でも国と沿線自治体の補助制度が使える。自治体が鉄道施設を保有・管理し、運行を事業者が担う「上下分離方式」を採用すれば、さらに補助額が増える仕組みだ。
JR九州が当初慎重姿勢だった肥薩線「川線」の八代-人吉(51.8キロ)は、熊本県や自治体が復旧費を補助するだけでなく、上下分離の採用で復旧後のJRの負担を減らすことで再開合意につなげた。
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23年夏の大雨で全線不通となった山口県のJR美祢線(46キロ)。沿線自治体はJR西による鉄道での復旧を前提に協議を始めた。20~22年度の1キロ当たりの1日平均利用客数は約370人。年4億7000万円の営業赤字路線だ。
JR西は「単独での復旧、運行は困難」と訴え、上下分離を譲らなかった。1年にわたる議論の末、今年8月、沿線側はバス高速輸送システム(BRT)での復旧検討へと方針転換した。
「議論を長く続けても市民にとっていいことは一つもない。一刻も早く不便な状況を解消するのが先決」と美祢市の担当者。鉄道だと復旧に最短でも10年程度、上下分離を採用すれば自治体も年3億円の負担が発生する。対してBRTは復旧期間3、4年、運営費はJR持ちだという。
JR西の25年3月期決算は1656億円の経常黒字。沿線3市の25年度の一般会計当初予算は752億円ほど。担当者は嘆く。「本当なら鉄道を残したかった。財源が限られる自治体が上下分離をのんで財政負担し、維持するのが持続可能と言えるだろうか」