〈資料写真〉8月17日にあったお別れの会で大水槽を泳ぐ10代目ユウユウ=鹿児島市
鹿児島市のかごしま水族館で6年近く人気を集めたジンベエザメの10代目ユウユウが8月、海に戻すために移した南さつま市笠沙町沖のいけすで死んでいるのが見つかった。南日本新聞には「長年飼育された個体が自然界で暮らせるのか」との意見も届いた。初代から四半世紀。同館を象徴する人気者の飼育の歴史を振り返る。
10代目は2019年9月にお目見えした。体長5メートルに育ち、黒潮大水槽で飼育できる上限(5.5メートル)に近づいたため、野生復帰させることになった。飼育期間は歴代最長だった。
輸送は専用容器を使い、8月18日朝に同館を出発。約3時間半後に笠沙のいけすに搬入した。いけすは20メートル四方で深さ7メートル。2週間から1カ月かけて、ここで海に慣らしてから放流する予定だった。
いけすでは職員2人が潜って水中の状態を観察。18日は問題がなかったため午後3時に現地を離れた。翌19日昼に訪ねた職員が、いけすの網に絡まって死んでいる10代目を見つけた。
9代目まで移送当日は職員が常駐し、その後は通って海に戻すトレーニングをした。ただ、現地にいても潜水時間は限られる上に、夜間の照明がストレスになる懸念もあり、今回は常駐を見送ったという。
■続く「鹿児島方式」
同館は1997年の開館前から、ジンベエザメを展示の目玉にしようと飼育を試みた。開館前に相次いで2頭が死に、2000年11月に最初のオスを搬入。「ユウユウ」と命名され、たちまち人気者になった。
1年8カ月後、体長が5メートルに達したため新旧交代。以後、水族館で一定期間育て、大きくなったら発信器をつけて海に放流する「鹿児島方式」と呼ばれる方法で飼育が続く。
名前は代々引き継がれ、ほとんどが2~3年で海に戻された。このうち飼育期間が3年超の4代目と6代目、10代目が搬出後にいけすで死んだ。
同館によると、環境変化によるストレスや、海が荒れていけすが濁った影響など、死に至ったと推測される状況はそれぞれ異なる。長期飼育の弊害との見方には否定的だ。
■飼育技術向上図る
10代目の死を受け、市民からは惜しむと共に、動きが制限される水槽での飼育を疑問視する声もある。
ただ「地元の海を再現する」という開館以来の方針があり、鹿児島県の近海でしばしば定置網にかかるジンベエザメは象徴的な存在に違いない。かつて数カ月不在になった際は、展示再開を求める声が相次いだ。
館側も、採血検査による体調把握や適正な給餌量の数値化など、飼育技術向上の取り組みを重ねてきた。
10代目が搬出された8月18日の夕方、11代目が黒潮大水槽に入った。佐々木章館長(59)は「元気に海に帰すまでがわれわれの仕事。今回の結果を次に生かすため、何が足りなかったのかしっかり検証する」と表情を引き締めた。