村営船から届いた物資を手分けして運ぶ島民=6日午前、十島村悪石島
群発地震が6月下旬から続く十島村悪石島では、これまでに震度1以上の有感地震が2300回を超えた。島民は前例のない災害に直面し、島の人口の6割超が島外避難するなど先の見えない日々を送ってきた。7月末以降、地震はだいぶ落ち着き、8月9日に全員の帰島が完了し約1カ月。平穏な暮らしや笑顔が戻ってきた。ただ地震は完全には収まっておらず警戒は続く。
■途絶えた予約
「7月は宿泊がなくなった。いつまで続くのかと不安しかなかった」。民宿を営む坂元勇さん(60)はこの2カ月半を振り返る。
島に5軒ある民宿のうち3軒の家族は島外避難。自治会長を務める坂元さん自身は島に残ったが、客の安全のためにも予約を断り、公共工事で滞在する長期客もいなくなったという。
8月ごろから客足が戻り9月7日に開催された伝統の「ボゼ祭り」には観光客らが多数詰めかけた。行事を無事終え仲間との世間話も弾んだ。坂元さんは「頑張って良かった。悪石島は復活したと宣言したい」。
好漁場の多い悪石島で遊漁船を運航する穴澤颯さん(23)は釣り客の受け入れをやめ、200万円以上の損失が出た。穴澤さんは「自然相手だから仕方ない。今は1カ月ですみ良かったと思える。8月から予約が毎日埋まりお客さんの笑顔がうれしい」と語った。
■学園に活気
悪石島学園では、県内外からの山海留学生6人を含む全校児童生徒14人が島外避難した。オンライン授業や夏休みを経て、9月1日の始業式には全員が元気な姿を見せた。さらに新たな仲間が1人転校してきて児童生徒は15人となった。
山海留学生の1人は「地震が続いているのは知っていたが学園が楽しいから帰ってきた」と語る。「寮生活や友人と会えるのがうれしかった。留学を続けていきたい」と目を輝かせた。
「ここまで頑張ったことに自信を持ってほしい」。始業式で子どもたちに語った當房芳朗校長。「日々の学校生活を充実させ地震への警戒も万全にする。心のケアも引き続き意識をしたい」と気を引き締めた。
■尽きぬ不安
気象庁によると、7月20日ごろから地震活動は低下傾向となったが、現状程度(震度1以上が1日数回)は当分続く可能性がある。島民の不安は尽きない。
診療のため鹿児島市に滞在していた有川幸則さん(73)はそのままとどまった。村営船による帰島第1便で戻ると家の中の皿や花瓶が割れていた。7月中には道路脇に1メートルほどの落石もあったが、現在、集落内に地震の影響を思わせる痕跡はほぼ見当たらない。
一時期に比べ穏やかな日が続くが備えは欠かせない。有川さんはヘルメットや非常用袋、懐中電灯をすぐ取り出せる場所に置いており「また大きいのがくるんじゃないかと不安になる」と打ち明ける。それでも「島で人生を終えたいとの気持ちが強い。周りの人と助け合いながら島を守っていきたい」と誓った。