〈詳報〉西之表市が提供した自衛隊宿舎建設地から大量のごみ… 他の用地求める国、現在地で継続望む市 工事再開へ協議難航

2025/09/13 07:00
基礎や足場が置かれている隊員宿舎予定地=4日、西之表市
基礎や足場が置かれている隊員宿舎予定地=4日、西之表市
 鹿児島県西之表市の馬毛島基地(仮称)関連の自衛隊員宿舎建設で、下西校区の予定地から大量のごみが出土して工事が中断し、再開に向けた協議が難航している。市は12日、周辺のボーリング調査結果を明らかにしたが先行きは不透明だ。関係者によると、他の用地を求める防衛省側に対し、土地を提供した市側は現予定地での建設継続を要望。工事には既に9億円が投じられており、廃棄物の処理を含む費用負担の調整も重くのしかかる。廃棄物処理場跡と認識し土地を売買したか意見が食い違う中、両者は落とし所を探っている。

 予定地は防衛省が2022年11月、市から2260万円で取得し、24年3月に工事契約した。10階建て1棟、97戸分を計画する。

■廃棄物27万トン?

 契約から半年後の24年9月、工事区域内の土中から石や瓶、古タイヤなどが見つかった。防衛省は同11月に工事を一時中止。一帯は1960年代に廃棄物処理場として使われた場所だった。南日本新聞が入手した内部資料によると、周辺に埋まる廃棄物の総量は約27万トンにも及ぶ可能性があることが分かった。

 不動産売買契約を結ぶ前に市側の説明はなかったのか。市は「現地調査に立ち合った防衛省の担当者に口頭で伝えた」「塵芥(じんかい)処理場跡地という文言がファイル名に含まれた資料を提供した」などと主張。「落ち度はなかった」(市幹部)との立場を取る。

 一方、防衛省側は契約に際し廃棄物処理場跡であるとの説明は受けていないとの認識だ。当時の担当者への聞き取りで事実は確認できず、市側からは議事録などは残っていないと回答があった。「不動産売買契約書」には土地利用履歴に関する記述はない。

■既に9億円支出

 内部資料によると、防衛省は今年4月、現予定地での建設断念、売買契約の合意解除を目指す方針などを市側に伝えた。工事を進めればさらに廃棄物混じり土を掘り起こすことになり、処分に相当の年数と巨額の費用を要する。隊員やその家族の精神面も考慮した。

 予定地には建物の基礎などが設置され、既に約9億円がかかっている。合意解除に至った場合、市への請求額は廃棄物処理費や原状回復費を含め24億円を超えるとの試算もある。両者は請求額を抑えるための交渉を重ねているとみられる。

 資料などによると、市側は現予定地での建設継続を求めている。建設費用の増大などを理由に防衛省側は消極姿勢だが、廃棄物など埋設物や土壌汚染がないことの確約、廃棄物混じり土の市による処分など継続検討に向けた最低限の条件を市側に提示した。

■情報開示求める声

 市は6~8月、現地で地盤やごみの有無を確認するボーリング調査を実施。合意解除に伴う多額の費用負担は避けたいとの意向が透ける。「契約前に候補地を示すのも苦労した」と市幹部が明かすように、宿舎に適した市有地が限られている事情もある。

 市民からは情報公開を求める声が上がる。下西校区の男性(72)は「情報が少ない。市は住民にしっかり説明してほしい」。西之表市の男性(73)は「丁寧に契約を進めれば問題は起きなかったはずだ」と嘆く。

 土地取引に詳しい志學館大の柳田明日香講師は「一般的な不動産取引では、物件の状態や埋設物の情報、権利関係など重要事項を契約書に明記することで後々の認識のズレやトラブルを未然に防げる」と話した。

 市と防衛省は南日本新聞の取材に、協議の中身に関していずれも「交渉中で事実かどうかも含めコメントできない」としている。

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