投票所の撮影を禁止する規定はなく、秩序を乱すかどうかが一つの判断基準になる
鹿児島市のパチンコ会社「モリナガ」の社長らが、7月の参院選で業界組織トップの自民党候補者に投票すれば報酬を支払うと従業員に約束したとして、公選法違反容疑で逮捕された。期日前投票所で同候補者名を記入した投票用紙を撮影し、提出することを条件にしていたとみられている。そもそも、投票所での撮影は禁止されていないのか。選挙管理委員会や専門家に聞くと、現場での対応の難しさが浮かび上がった。
事件を巡っては、同法違反(買収約束)の疑いで逮捕された社長ら3人が、モリナガの店長らにウェブ会議で指示。写真は店ごとに取りまとめるよう求め、店長らは買収に応じた従業員の氏名や投票日、画像などを一覧表にして、関連会社「デルパラ」(東京都港区)に送ったとみられている。
投票所での撮影可否について総務省に聞くと、「撮影そのものを禁止する規定はない」という。ただし公選法にのっとり、「投票所の秩序を乱す者がいた場合は制止し、従わないときは投票所外に退出させることができる」と答えた。
実際の現場はどうか。県選挙管理委員会は「県が一元的に示す基準はなく、秩序を乱すかどうかの判断は各市町村に委ねている」と回答。実務に当たる鹿児島市選管の担当者は「『投票の秘密』を守るため不用意に近づくことができず、写真を撮っているかも分かりにくい。今回のような事態があっても把握するのは難しい」と打ち明けた。
交流サイト(SNS)を見ると、期日前投票所で撮影した投票用紙を投稿している人は少なくない。
公選法に詳しい一橋大学大学院法学研究科の只野雅人教授(61)=憲法学=は「仮に規制するとしても買収問題とは切り離し、『投票所の秩序維持』の観点から考える必要がある。自身の投票用紙のみ撮影する行為が秩序を乱すかどうか、線引きは難しい」と指摘する。
今回の買収容疑事件については「これを持ち出して撮影自体を規制する、公選法を改正するといった議論は現実的ではない。当面は選管ごとに対応していくことになるだろう」との見解を示した。