2022年5月に日中中間線の西側で土台の設置が確認された構造物。日本側は一方的な開発行為として中止を求めている。(外務省ホームページより)
中国海洋調査船「向陽紅22」が9月末から行き来した鹿児島県・奄美大島沖の日中中間線付近は、中国がガス田開発を続ける海域に近い。専門家は、中国が天然ガスなどの調査をさらに進め、自国の領域とアピールした可能性を指摘する。
2000年代、日本の排他的経済水域(EEZ)付近で中国の調査船による特異な反復航行が急増し、中国側海域でガス田開発が続いた。日中両政府は08年、ガス田の共同開発に合意したが、尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件後に交渉が中断。中国の開発はその後も続き、今年8月までに日本側は21基の構造物を確認。一部で船舶を察知するレーダーも設置され、軍事利用を警戒する声もある。
今回、調査船の航行が確認されたのは、この海域の南側付近。熊本大学大学院の横瀬久芳准教授(海洋火山)によると、一帯はユーラシア大陸の縁の海底に当たり、天然ガスや石油のほか、レアメタル(希少金属)も豊富と考えられる。
中間線付近での海洋調査経験もある横瀬氏は、約10年前には「数百隻の中国漁船団や千トン級の大型船が日常的にいた」と話す。今回の調査船は、ワイヤやパイプのようなものを延ばして往復していたことから、天然ガスなどの調査で海底のたい積物を収集したとみる。「本格的な開発であれば船はもっと大きい。日本側の反応を見ている側面もあるのではないか」と推測した。
10管と沖縄県周辺の11管の本部長を歴任した海上保安協会(東京)の一條正浩常務理事(63)は「潜水艦の航行に必要な塩分濃度や水温のデータも収集したのでは」とみる。ただデータは既に取り尽くしたともされ、「また調査するのは不思議。温暖化などで数値を更新したいのか、パイプラインを建設したいのか注視が必要」と指摘する。
調査船が船舶自動識別装置(AIS)を切らずに航行し、インターネットサイトに航跡が残っていた点に着目する。「中国の海とアピールしたいのだろう。外交に生かすため、海保の記録は重要になるはずだ」と語った。