「図書館=静かに」の常識を覆した 市民の「やりたい」を次々に実現する都城市立図書館、来館者ついに700万人超え

2025/10/13 11:50
都城市立図書館関係者と相談しながら「千日夜市」の告知スペースの展示に当たる鎌田美里さん(写真右から3人目)=同市中町
都城市立図書館関係者と相談しながら「千日夜市」の告知スペースの展示に当たる鎌田美里さん(写真右から3人目)=同市中町
 2018年に宮崎県都城市の市役所近くから中心市街地に移転した市立図書館の来館者が700万人を超えた。「自分がいてもよいと思える居場所をつくる」をコンセプトに、「静かな場所」という従来の図書館のイメージを転換。禁止事項を極力減らして生まれた「心地よい」空間が、幅広い世代の再訪につながっている。さらに直近の2年間は、もう一つのコンセプトである「一人一人が大事なものを見つける」に沿い、市民がやりたいことを職員が伴走して実現する取り組みが拡大している。

 6日、図書館の一画に七夕祭りの吹き流しなどが展示された。11月2日に同市牟田町の天竜山攝護(しょうご)寺で開かれるイベント「千日夜市」の告知スペースの設営だ。

 夜市は、七夕飾りが中心市街地の繁華街の一つ、千日通りを彩ったかつての光景を子どもにも見せたいと、同通りで飲食店を営む鎌田美里さん(30)が、仲間とともに昨年初開催した。

 集客に悩み相談に来た鎌田さんに、図書館側は告知スペースの設置を提案した。鎌田さんは「初回2000人もの人が来たのは、多くの市民が出入りする図書館が関わってくれたから」と感謝する。

 都城商業高校に23年設立された共創ウェルビーイング部は、地域の人々が緩やかにつながる居場所づくりを目指して活動する。部顧問の北郷晶子教諭(44)は「図書館が、子ども向けの積みコップイベントを一緒にやらないかと声を掛けてくれ、古ビルの壁を使ったアートイベントでも、オーナーとの間を仲介してくれた。おかげで部が目指す方向が定まった」と明かす。

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 外部の街や人と積極的につながり、街の活性化に寄与すること自体は、図書館の目標にあった。井上康志館長(71)は「開館から数年は忙しさもあり、職員にも踏み出す意識が希薄だった」と振り返る。市民の活動拠点として2階に設けたプロジェクトスタジオも活動実態がなかった。

 転機は19年度終盤からの新型コロナウイルス禍。図書館は20年度に75日、21年度に10日、望まぬ休館を強いられた。来館者がいなくなったことで、職員の間に受け身のままではだめだ、との危機感が広がり、図書館が果たすべき役割に関する議論が始まった。

 この中から生まれた企画が、市民から提供された1935(昭和10)年の絵図をもとに証言を集め、かつての中心市街地の街並みを再現する「まちなか記憶展」だ。開催8回を数える人気企画に育った。

 井上館長は「職員の意識が変わり、来館者や市民と積極的に雑談する姿が見られるようになった。さまざまな街の情報をキャッチし、それを必要な人につなぐことが可能になった」と強調する。

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 都城西高校3年、福留あおいさんは「紙とデジタル本についての意見交換会を開きたい」と図書館に持ちかけ、今年5月、本に関するドキュメント映画上映と同時開催する形で実現した。「ふわふわした提案をきちんと受け止めてもらい、うれしかった。高校生でもやればできるんだ、という自信をもらった」と語る。

 中心市街地に残る石垣・石蔵保存や和紙文化再生などの活動で、高校生と多く関わる市地域プロジェクトマネジャーの池田浩二さん(48)も、間口の広い図書館の取り組みが、高校生に前向きな影響を与えていると実感する。「将来、まちづくりへの積極的な参画へとつながる可能性がある」と期待する。

 井上館長は「多様な人が出会い、ここに来れば何かが始まるという実感が持てる場所として、今後も変化し続けていきたい」と意気込みを見せた。

■福山高校(鹿児島県霧島市)が都城西高と合同で探究授業の発表会

 鹿児島県霧島市の福山高校は2022年度から、都城市立図書館に出向いて、同市の都城西高校と地域課題解決に関する探究活動の合同発表会を開いている。

 福山高校では21年度から、1、2年生が合同で探究活動「福山みらい創業塾」に取り組む。「地域社会の先導者となる人材育成」を目的とし、目的実現のために「郷土への愛着」「自ら挑戦しようとする精神」「問題発見・問題解決能力」の養成を重視する。

 同校商業科の折田真一教諭(46)は市立図書館を発表会場に選んだ理由を、「多彩な人が集まるコミュニティーの要素が濃厚。新たな価値を生み出すイノベーションにはコミュニティーが欠かせない。問題解決能力を養うには最適の場所だ」と説明する。

 福山と都城が昔から同じ経済圏にあることも重要な要素だという。折田教諭は「子どもたちが進学や就職で地域外に出て、戻ってきた際に、地域内に連携する仲間がいない場合もある。同じ経済圏内で連携できる仕組みを前もって整えておく必要がある」と強調した。

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