夏目漱石の後期三部作の一つ「彼岸過迄」(1912年)。表紙の上下には十二支のシルエットがあしらわれている=久留米市美術館
明治から大正にかけて活躍した鹿児島市出身の画家、橋口五葉(1881~1921年)の仕事を総覧する「橋口五葉のデザイン世界」展が、福岡県の久留米市美術館で開かれている。画稿や版画など約220点を展示。夏目漱石、泉鏡花ら文豪の著作を彩った装丁作品も並べ、ブックデザイナーの顔に光を当てる。26日まで。
装丁を始めたきっかけは、美術学校在学中に知り合った漱石から「吾輩(わがはい)ハ猫デアル」の単行本を任されたことだった。英国の世紀末芸術を思わせるデザインや洗練された題字装飾を施し、一躍注目を集める。
「売れなくても美しい本を」という漱石の期待に応えた五葉は、以降も代表作のブックデザインを手がけ、他の作家とも関わっていく。展覧会場には鏡花や森鴎外、谷崎潤一郎など計約50点の装丁本を展示している。
漱石「彼岸過迄(ひがんすぎまで)」の表紙にはインド風の衣装をまとった女性や菩提(ぼだい)樹が描かれ、エキゾチックな雰囲気だ。洋の東西を超え、豊かな表現を試みた五葉の姿勢をうかがわせる。鹿児島新聞(南日本新聞の前身)記者だった下園三州児(みすじ)が編んだ鹿児島の地誌「新鹿児島」は、桜島の絵が表紙と背表紙を飾る。
貴重な資料ながら、本を立てたり、扉絵をのぞくことができるようページを開いたりと、多面的に見せる展示も特徴だ。同展の監修者で、自身のコレクションから出品した美術史家、岩切信一郎さん(鹿児島市出身)の意向で実現したという。井須圭太郎学芸員は「手に取った時の目の動きを追体験できる。装丁の魅力に触れてほしい」と話す。
東京、愛知など4カ所を回る巡回展で、久留米は最後の会場。月曜休館(13日は開館)。一般1200円、65歳以上900円、高校生以下は無料。同館=0942(39)1131。