鹿児島県警への情報公開請求で入手した懲戒処分台帳
不祥事の相次いだ鹿児島県警が再発防止策に取り組んで1年が過ぎた。刷新が期待される一方、県民の「県警は変わった」という実感は広がりを欠いているのが実情だ。連載「検証 鹿児島県警」第5部は、組織のあるべき姿を問い直し、改革の行方を展望する。(連載・検証 鹿児島県警第5部「組織改革の行方」③より)
懲戒処分の基準を見直す必要はないか-。鹿児島県議会総務警察委員会で3月、県警に対する異例の要望が出た。不祥事の再発防止を進めるに当たり、「他の公務員と比べて処分が甘い」「(指針を示す)警察庁とも協議しながら検討を」と踏み込んだ。
県警は翌月の定例会見で、「基準が緩かったり甘かったりするという指摘は当たらない」と反論。総務警察委員会からの要望は警察庁にも伝えたとした上で、「基準の問題ではない。引き続き指針を参考にしながら厳正に対処する」と見直しを否定した。
このやり取り以降、県警から新たな不祥事に関する発表はなく、議論は熟さないまま下火になっている。
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要望の背景の一つには、男性警察官が2023年、市民の個人情報をまとめた「巡回連絡簿」を悪用したストーカー事案がある。女性に携帯電話で性的なメッセージを送ったとされるが、懲戒処分よりも軽く、公表対象にもならない訓戒処分となった。
警察庁の懲戒処分の指針をひもとくと、「規律違反行為の態様」に対応した「処分の種類」が示されている。職務執行上や私的な行為など場合分けされており、拳銃や警察手帳に関わる内容は明記されているが、巡回連絡簿の悪用を直接規定した項目はない。処分は「動機や態様、結果」「社会に与える影響」などを総合的に考え、内容によっては「監督上の措置」である訓戒もあり得るとしている。
指針は妥当なのか。南日本新聞は9月24日、同庁に(1)指針は甘くないか(2)警察職員の懲戒処分は世間一般より厳しい方が良いとの考えはないか-と書面で尋ねた。同庁は「準備中」として、10月15日夕方時点で回答していない。
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巡回連絡簿を使ったストーカー事案を巡っては、元生活安全部長が「(野川明輝前本部長が)隠蔽(いんぺい)しようとした」として、札幌市のフリーライターに詳細を記した文書を送っていた。これを把握した県警は国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで元生活安全部長を逮捕したが、「ストーカー事案の警察官こそ逮捕すべきではないのか」との声は、県警内外に根強く残る。
不祥事に向き合う姿勢は、組織の印象を左右する。
国内外の警察官の職業文化に詳しい明治大学法と社会科学研究所の吉田如子客員研究員(警察学)は、英国の警察官は日本と同じく政治的中立が求められるが、幹部以外の警察官で親睦組合を結成し、現場の声を警察組織に反映させていると例示する。
「個別の不祥事に対し『われわれはこのような道徳基準で生きているわけではない』と声明を出すこともある。健全な組織運営を果たす役割を担っている」と説明。「良い帰属意識を育てる方法としても参考になるだろう」と話した。