新鮮な魚の刺し身を並べる熊田卓三さん=さつま町永野
「ほかの店と同じ土俵には上がらない」を信念に、ユニークな経営で親しまれたさつま町永野のスーパー「フレッシュくまだ」が、10月末で閉店する。創業から90年余り。山間部でも新鮮な魚を毎日並べ、珍しい品もそろえてきた。3代目の熊田卓三さん(56)は「支えていただいたお客さまに感謝しかない」と話す。
熊田さんによると、同店は1930年代前半に祖父が酒や食料品の専売店「熊田商店」として、現在地近くで立ち上げた。33年前に現在の建物と屋号に変更。県内でいち早く酒のディスカウント販売を始めるなど、他店との差別化を図りながら経営してきた。
海のない町内でも新鮮な魚を食べてもらおうと、鹿児島市の市場などから毎朝取れたてを仕入れ、店でさばいて並べる。好評のしめさばをはじめ、事前予約で開店前に売り切れることもあるという。店内で作る総菜も豊富で人気が高い。国際大会で大賞を受賞した希少な天然塩を国内で唯一、店頭販売するといった独自性も発揮してきた。
町内外にファンがいるが、来店客は少子高齢化で徐々に減少。近年は人手不足や物価高もあって苦境だった。熊田さんは「何とか経営を続けてきたが、将来的なことを考えるとかなり厳しい。打開策を打ち出せなかった自分の責任」と苦渋の決断に至った思いを語る。
10月初旬に閉店を公表して以降、連日多くの人が来店する。週2回は訪れる同町求名の佐伯秀雄さん(73)は「いつもおいしい刺し身が多く並び、ありがたい。近場に店もないし、11月からどうしよう」と途方に暮れる。
「残念と声をかけてくださるお客さまもおり、ありがたい。今月末まで精いっぱいもてなしたい」と熊田さん。今日も笑顔で商品を並べる。