民間空港での戦闘機の離着陸訓練を見に訪れた家族連れら=26日、奄美市笠利の奄美空港
全国で続く過去最大規模の自衛隊統合演習(JX)は、鹿児島県内で「生地(せいち)」と呼ばれる訓練場以外の土地の利用が際立っている。特に奄美群島は訓練に適した地形が多いとされ、空港や港湾、海岸線に戦闘機やミサイル部隊が続々と展開する。異例の規模・内容だが訓練は毎年のようにあり、地元には慣れた雰囲気も漂う。実態をつかめないまま、訓練は格段に深化している。
26日、奄美市の名瀬港では実弾ミサイルを載せたトラックが民間の船から次々と降りた。奄美空港では3年連続となる戦闘機の離着陸訓練(タッチ・アンド・ゴー)を実施。機体が飛来すると展望デッキの住民は歓声を上げ、離着陸の瞬間をカメラに収めていた。
家族8人で訪れた同市笠利の主婦(38)は「こんなにも受け入れていいのだろうか。住民が穏やかで訓練地に使いやすいのでは」と複雑さをにじませる。
夜中の港に並ぶ数十台のトラック、海岸に構築される障害物や模擬の地雷原…。こうした景色が奄美大島のあちこちに広がる。島内の自治体職員は「住民はすっかり慣れ、車両を見ても驚かない」と語る。
訓練には地対艦ミサイル部隊だけでも北海道や大分などの計4連隊300人、車両70両が参加。これに加え、それぞれ別の部隊による地対空ミサイル装置の展開(沖永良部島)、艦艇から海岸への着上陸(種子島)など県内では少なくとも約20の訓練が同時並行で進む。自衛隊幹部は「とんでもない規模。地元の協力に感謝しかない」とうなる。
訓練の抗議活動を続ける奄美市名瀬の関誠之さん(73)は「多くの人が意味も分からず受け入れている。防衛費増が加速しようとする中、歯止めが利かなくなっていないか」と嘆く。
住民の理解は奄美駐屯地の影響も大きい。2019年の開設前から台風や豪雨災害の救助で活躍。今では祭りや児童生徒への講座にも溶け込み、「隊員のおかげで伝統行事が成り立っている」との声も上がる。
これをモデルに基地のない徳之島では「誘致」が続く。これまで日米の大規模訓練を受け入れ、今回は戦闘機が空港で訓練した。空自OBで天城町自衛隊誘致協議会の平野勝宏会長(74)は「周知はなく見学は数人だった。住民には慣れがあるが、部隊側の緊張は相当高まっている。もっと実態を知ってほしい」と話す。
自衛隊取材歴30年の軍事フォトジャーナリストで、6月に海自護衛艦に乗り、南シナ海で中国軍の動きを見てきた菊池雅之さん(50)は「威圧的な動きなど脅威となっているのは確か」と指摘。今回の奄美での訓練も取材し、「これだけの生地訓練は異例中の異例と言える規模。国民が理解しないまま次々と進んでいる面があり、より丁寧な説明が必要だ」と話した。