高市首相は前向きというけれど…どうなる「年収の壁」――時給を上げるほど勤務時間は減っていく 上がる最低賃金、企業悩ます負のスパイラル

2025/10/27 11:38
自動チェックイン機を導入したホテルサンデイズ鹿児島=鹿児島市
自動チェックイン機を導入したホテルサンデイズ鹿児島=鹿児島市
 鹿児島県の最低賃金(時給)は11月1日から、現行の953円から73円上がり、1026円となる。改定額、上げ幅ともに時給で示す方式になった2002年以降最大。人手不足に長引く物価高や資材高、「年収の壁」による働き控えなど、県内企業は対応を迫られている。

 指宿市の居酒屋には「八十円」と書かれた焼き鳥のメニューが残る。うまくて安いが売りだった。店主(48)は「約20年前の開店時のもの。10円ずつ引き上げて今は120円。値上げのたびに客に謝っており、これ以上は上げられない」。

 原材料費や電気代の高騰に加え、新型コロナウイルス対策の実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済も始まった。最低賃金引き上げは物価高への対応と理解はするが「追い打ち」と映る。直近5年間で鹿児島の時給は233円上がる。経営する2店舗で雇うアルバイトは計12人。11月からはアルバイト代だけで1日約2000円、月約5万円の支出増を見込む。

 政府は20年代に全国平均で時給1500円を目指す。店主は「大企業と違い黒字確保もままならない中小零細は厳しい」と悲鳴を上げる。食材ロスの削減や仕入れ先との価格交渉、注文時の端末機導入に取り組んできたものの「もう限界」。店舗縮小や家族経営への転換も頭をよぎる。

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 会社員や公務員に扶養されるパート従業員らが、税や社会保険料負担を気にして働き控えを招く「年収の壁」に悩む経営者も多い。ホテルサンデイズ鹿児島(鹿児島市)は従業員の約3分の2がパート。清掃や洗い場業務を担う。宮下幸三支配人(48)は「時給が年々上がり、働ける時間は減っている」と説明する。

 宿泊業は人手不足が顕著なため「最低賃金では人が集まらない」と運営する竹山産業開発(奄美市)の竹山真之介社長(50)。最賃を約200円上回る時給で募集をかける。ただ時給を上げるほど年収の壁を意識する人は増え、勤務時間が短くなる矛盾を抱える。

 高市早苗首相は「年収の壁」引き上げに前向きとはいえ、国会での議論の行方は不透明だ。同ホテルは連泊時の清掃を簡略化するプランや自動チェックイン機導入で効率化を図り、働き控えに備える。

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 建設、不動産業を手がけるユーミーコーポレーション(鹿児島市)のパートの時給目安は最賃プラス50円。今年は10月から1100円にした。最近の賃上げは、労使ともに「壁」への対応を話し合うきっかけにもなった。

 賃金上昇と社会保険料の兼ね合いから、どの程度の勤務なら手取りを維持できるかなど、壁を越えるメリット、デメリットを確認。来春には全員が社会保険料を負担しながら働く見込みになった。フルタイムになると契約社員や社員への移行を促し、人材定着を図る。

 人件費はどう工面するのか。弓場昭大社長(54)は「コロナを機に労働環境が変わったのも追い風」と指摘する。一部業務のリモート化や建築現場を本社から確認できるモニターを導入した。「省人化で得た利益を生かしつつ、効率アップを呼びかけている。今後、AI(人工知能)についても活用したい」と前向きに捉える。

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