東郷学園義務教育学校の生徒指導委員会に参加する井手迫奈央さん(右端)。毎週金曜日に集まって情報共有する=薩摩川内市
鹿児島県教育委員会が10月29日に発表した2024年度の問題行動・不登校等調査で、不登校の児童生徒は5676人と過去最多を更新した。子どもを取り巻く環境が複雑化し、学校だけでは解決が困難な問題が増えている。学校や関係機関と連携し、子どもの生活環境の改善を図るスクールソーシャルワーカー(SSW)の存在感は高まっている。
「ネームを着けていない生徒や、朝の読書タイムに登校が間に合わない生徒が何人かいました」。10月24日、薩摩川内市の東郷学園義務教育学校の会議室に、市のSSWである井手迫奈央さん(49)と教頭、生徒指導担当教諭、養護教諭らが集まった。議題は生徒指導の状況や不登校生徒の経過など。週1回ペースで開き、情報共有を図っている。
井手迫さんは社会福祉士の資格を持ち、学園を拠点に、ほか4小中学校を担当する。県内に3人いる県広域SSWの一人でもあり、湧水町のSSWも兼ねる。
スクールカウンセラーが子どもを心理面から支えるのに対して、SSWはソーシャルワーク(社会福祉援助)を通じて環境改善を図る。家庭訪問や相談対応といった直接支援に加え、必要に応じて行政や社会福祉協議会、児童相談所、児童家庭支援センター、医療機関などにつなぐ。普段は子どもや教室の様子に変化がないか、担当校を巡回し、観察や情報共有にあたる。
東郷学園の志摩勝浩教頭(54)は「学校は外部との連携があまり得意ではないので助かっている」。中学校にあたる7~9年生の指導を担当する園田祐樹教諭(40)は「教員と違う角度から情報を集めてくれて心強い」と信頼を寄せる。
■ばらつき
SSWは、文部科学省が08年度に活用事業を始めたことを契機に普及が進む。当初は国と県が費用を負担する形だったが、県は15年度から3年の期限を設け、市町村に単独実施への移行を促した。22年度からは41市町村が単独で実施し、計97人(25年6月時点)が活動する。
配置人数は自治体の裁量に任され、ばらつきが大きい。鹿児島市、志布志市などは6人。霧島市は現在ゼロとなっている。運用態勢も自治体によって異なる。鹿児島市はSSWが教育委員会に常駐し、学校の要請を受けて派遣する。市教委が状況を把握できるほか、業務の偏りを防ぎ、保護者などによる過度な連絡や要求から守れる利点がある。薩摩川内市は拠点校に配置する。教職員との連携が深まり、子どもや現場の変化を把握しやすいという。志布志市は各中学校区に1人配置している。
市町村の枠を超えて対応する県広域SSWは、県立高校や特別支援学校のほか、単独未実施の三島村、十島村をカバーする。学校から県教委への要請を受けて派遣され、21年度は10回、22年度19回、23年度22回、24年度39回と右肩上がりで推移している。
■伴走
県教委によると、SSWが対応にあたる家庭は、生活困窮や虐待、ヤングケアラーやネグレクト、保護者や子どもの心身の健康問題など、さまざまな困難を抱え、それらが複合したケースもある。
井手迫さんは過去に、小学校高学年の児童が不登校、ひきこもりとなったケースを担当した。母子家庭で、母親は介護に追われ疲弊。本人にも発達の特性があった。市営住宅の入居手続きや母親の就労、児童の療育手帳取得などのサポートに奔走。学校も週1回の安否確認にあたった。児童は1年半ほどで登校できるようになり、特別支援学級を経て特別支援学校に進学した。
夕方以降の家庭訪問や、時には深夜に電話対応が必要なことも。SSW個人が背負い込むのは避けるべきだが、「信頼関係を築かなければいけないので、時間外だからと切ることはできない」と葛藤がある。学校に福祉の視点を理解してもらう必要性も実感している。「SSWは『つなぐ』のが役割と言われるけれど、つないで終わりではない。SSWと教員、他の専門職も一緒にずっと伴走していくのが、子どもにとっても理想」と強調する。
■「子どもの最善」第一に 岩井浩英教授(鹿児島国際大)に聞く
教育現場でのソーシャルワークのあり方について、「かごしま学校ソーシャルワークを進める会」代表で、鹿児島国際大福祉社会学部の岩井浩英教授(64)に聞いた。
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学校におけるソーシャルワークのポイントは、大きく分けて二つある。一つは、いきなり支援するのではなく、子どもの背景などについて情報収集・分析する「アセスメント(見立て)」から始めること。二つ目は、担任の先生が一人で抱え込まないようにケース会議を開いて対応すること。複数回開くようにし、多角的な情報収集に努めてほしい。
「チーム学校」としての連携は重要だが、スクールソーシャルワーカー(SSW)が学校の一員とみなされることには弊害もある。困難を抱えた子どもや家庭の中には、学校への不信感が強くなっている人もいる。外部の人間だからこその安心感、中立性は保たなければならない。子どもにとって、何が最善かを第一に考えた対応が求められる。
学校もSSWや支援機関につないだら終わりではなく、子どもや家庭に寄り添い続ける姿勢を忘れないでほしい。関わる人間が、それぞれの役割分担を、合意の上で明確にすることが必要だ。対応が上手な学校ほど早めに動き、こまめに情報共有している。
全入時代になり、大学にもさまざまな発達特性や家庭環境を抱えた学生がいる。鹿国大を含め「キャンパスソーシャルワーカー」を置く大学も珍しくない。
抱える困難や諦めの感情が長年積み重なった結果、表出する問題行動も深刻化しやすい。高校や大学で不適応を起こすと、退学という事態もありうる。できるだけ早い段階で適切な支援につなげることが重要だ。