複数の教員のサポートを受けながら授業に臨む生徒たち。窓の外は真っ暗だ=10月29日午後8時半ごろ、鹿児島市西谷山1丁目のいろは中学校
鹿児島で唯一の公立夜間中学「県立いろは中学校」が、鹿児島市に開校して半年がたった。10~80代の1期生は、世代を超えて友情を育み、学校生活を楽しむ。11月からは、2期生となる来春の入学希望者の面接がスタート。どんな授業が行われているのか。10月末、夜間中の1日を追った。
「いただきます」。日が傾き始めた午後5時前、登校した生徒の数人が、いろは中が入る開陽高校の食堂で給食を取り始めた。希望者は1食300円で利用でき、教員らと雑談しながら授業前に食事を済ます。
10月から利用する1年の男子(17)は「授業中に空腹になることがなくなった。この価格できちんとした量と栄養の食事ができて助かる」と喜ぶ。
■教材研究
1期生は1年に16人、2年に3人が在籍する。学年ごとの学級活動を終えた午後5時35分、1時間目が始まった。
2年生は、理科の授業を受けるため開陽高の化学実験室へ。A4判の学習プリントを見ながら、唾液の働きを確かめる実験に臨んだ。音楽室や体育館も開陽と共用している。
ほとんどの授業は、教員手作りのプリントを教材に行われる。漢字にルビを振るなど工夫してある。学習歴の個人差が大きく、授業時間も昼間の中学より10分短い40分しかないため、教材研究は欠かせないという。
化学物質過敏症で、中学時代を含めて、長く外出が困難だった生徒の1人は「同じ境遇の仲間と一緒に前へ進めて心強い。入学にはとても勇気が必要だったが、先生たちも理解しようとしてくれる」と感謝する。
■複数教員
2時間目。1年生は社会の授業へ。教室には生徒10人と教員3人がいた。全ての授業に複数の教員が入り、困っている生徒に声をかけたり、パソコンの使い方を助言したりする。生徒同士でも助け合い、和気あいあいとした雰囲気だ。
続く3時間目は、三つの教室に分かれた。英語の基礎コースと標準コース、日本語指導が同時に進んだ。理解度に合った学習ができるよう、国語と数学を含む3教科はコース別に授業を設ける。
週に2回、日本語を学ぶのは外国にルーツがある3人。中国出身の女性(45)は、スマホの翻訳機能を駆使しながら発声練習を繰り返した。「日本語があまりできないので怖かったが、大丈夫と思えるようになった」とほほ笑んだ。
最後の4時間目と学級活動が終わると、とっぷりと夜も更けた午後9時。窓の外は真っ暗だ。仕事や通学手段の都合で遅れたり、早めに帰宅したりする生徒も少なくない。主要5教科は授業を撮影し、休んでも不安にならないよう動画配信を行っている。
就労継続支援A型事業所で働きながら通う1年の松元伸一さん(50)は、小学低学年の頃から、周囲のからかいを苦に不登校だった。学び直しを決意し、いろは中の門をたたいた。
「あんなに学校が嫌いだったのに、今は楽しいことばかり」。苦手だった人前での発表もこなす。「もう一度学びたいと思ったら行動してほしい」と“後輩”の入学を心待ちにしている。