BRTと列車が同じホームで乗り継ぎできるJR添田駅=10月15日、福岡県添田町
国は地方鉄道の存廃議論の目安として、1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)が千人未満を示す。鹿児島県内では直近3年間でJR指宿枕崎線の指宿-枕崎や肥薩線の吉松-隼人など4路線の区間が該当する。鉄路の維持か、バス転換か。県外の他路線で先行する取り組みは、いずれ県内の参考になるかもしれない。全国の現場を訪ねた。(連載かごしま地域交通 第5部「鉄路の行方」④より)
北九州市と大分県日田市を結ぶJR日田彦山線は2017年、九州北部豪雨で添田(福岡県)-夜明(大分県)の29キロが不通となった。地元が強く求めた鉄路での復旧はかなわず、23年8月、JR九州初のバス高速輸送システム(BRT)に代わった。不通区間と夜明-日田を合わせた全長40キロ。線路跡を使った専用道14キロと一般道をカラフルな専用バスが走る。
BRTは専用道や一般道のバスレーンを組み合わせ、路線バスより定時性や速達性に優れるとされる。JR九州は開業に際し、1日22便を32便に増発。乗降場所も12駅から36駅(停留所)と3倍にした。地元の要望を受けて病院や学校を加えた。
添田-日田の中間に当たる福岡県東峰村内の経路はほぼ専用道を行く。駅は鉄道時代から引き継ぐ山あいの三つのまま。通院で大行司駅を時々利用する60代女性は「BRTにも慣れてきたけど、鉄道が走らなくなって寂しい」。
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JR九州は「鉄路復旧を前提」に添田、東峰、日田の沿線3市町村や福岡、大分両県と18年から協議を始める。翌年に鉄道、BRT、一般道のバスの3案を提示。鉄道だと復旧に56億円かかるとの試算を示した上で、継続的運行のためとして自治体に年1.6億円の負担を求めた。添田-夜明は被災前(16年度)2.6億円の赤字区間だった。
自治体側は難色を示す一方、交通手段の早期再開を望む立場から20年7月、BRT転換で合意した。復旧費(26億円)は全額JRが負担した。
「東峰村としては財政負担もやむなしという方針が念頭にあったが、BRT容認の流れは覆せなかった」。合意当時の村長、渋谷博昭さん(75)は悔しさをにじませる。訪日客を意識した観光振興や現役世代の定住をはじめ地域活性化には鉄道が重要な役割を果たすとみていた。
村は人口1725人(9月30日現在)と、2年前より100人以上減った。村内を運行していた私鉄バスは運転手不足のため今年4月撤退し、過疎化の厳しさは増している。渋谷さんは「BRT化で路線自体は守られた。鉄道に期待していたように、村外から人を呼び込み地域発展につなげられるかを見守りたい」。
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福岡県は20年、BRT転換を機に10億円の基金を設立。東峰村と添田町による駅周辺整備などを支援するほか、連携したPR活動や県独自の地域振興を進める。
BRT利用者は今年8月末、延べ20万人を超えた。JR九州によると、1キロ当たりの1日平均利用者数(輸送密度)は23年度164人で、鉄道時代の添田-夜明の131人より25%増えた。24年度は138人と微増にとどまる。
JRはBRTを地域交通網維持のための選択肢の一つと位置付ける。古宮洋二社長は9月の会見で「鉄道ではすぐできないルート変更やこまめな停留所設置ができる」と利点を強調。観光6割、日常利用4割との現状分析から地元の利用促進を図る考えだ。
BRTにも運転手不足や利用者減の懸念はある。停留所の多さは所要時間の長さにつながる。九州初の転換例は重要な試金石となりそうだ。