取引価格が急騰する秋冬番茶。11月初旬まで摘採が続く=7日、南九州市
主にペットボトル茶の原料などに使われる「秋冬番茶」の価格が今年、急騰している。鹿児島県茶市場(鹿児島市)で取引される1キロ平均価格は3000円を超える日もあり、過去10年間で最も高かった今年の一番茶の本茶(2564円)も上回る。茶業関係者は「全国的な在庫の少なさや生産量の減少」が要因とみている。
茶業界関係者も「異例中の異例」と口をそろえる取引価格の急騰。長年の茶価低迷に悩まされてきた生産者は喜ぶ一方、買い付ける茶商らはバブル化を懸念する。「このままでは消費者に届けられなくなる」と戸惑う声も漏れる。
「この業界に30年いるが、これほどの高騰は初めて。実態から離れている」と驚くのは、茶の製造・販売を手がける特香園(鹿児島市)の桑畑政茂社長(53)。高騰の一因には、品薄感を覚えた大手ペットボトル飲料メーカーなどの、積極的な仕入れが重なったとみる。
生産者は実入りが増え喜ばしいが、既存の取引先への原料供給にも影響が出始めた。今後の状況は見通せず、桑畑社長は「せめてもう少し落ち着き、バランスの取れた価格になってほしい」と求めた。
一番茶から秋冬番茶まで幅広く取り扱う鹿児島製茶(同市)の森裕之社長(52)も「今年は引き合いが強い。これだけ価格が高いと、仕入れるのが大変」と漏らす。インバウンド(訪日客)や海外輸出の需要もあり、今年の茶価は全体的に高い。「今後は増産し、価格が安定してくれれば」
県内最大の産地を持つ南九州市では、11月初旬まで秋冬番茶の摘採が続く。高騰を受け、通常は廃棄処分する来春の一番茶に向けた「整枝」で摘んだ茶葉を出荷する生産者もいる。マルヒサ製茶(同市)の塗木直哉さん(39)は「今まで茶価は下落してきた。今年は一番茶シーズンが2回来たような感覚」と話す。
県茶生産協会の田原良二会長(66)は「単年で極端に値上がりすると、生産者が振り回されかねない」と危惧する。足元では担い手の高齢化や資材価格の高止まりが続く。「収益を確保できる価格帯が続いてくれればありがたい。高騰で浮つかず、安心・安全で高品質の茶づくりに励む」と冷静に語った。