専門性が高く需要も増しているのに、低報酬――不足する手話通訳士 現場は訴える「『福祉はボランティア』という古い考えから抜け出せてない」

2025/11/17 06:30
手話でろう者と会話する県手話通訳問題研究会の横溝和恵会長=11日、霧島市
手話でろう者と会話する県手話通訳問題研究会の横溝和恵会長=11日、霧島市
 手や指の動き、表情で意思を伝える「手話」。東京デフリンピックが開幕し、聴覚障害や手話への理解の広がりが期待される一方、鹿児島県内で手話通訳の人材が不足している。手話を必要とする県内のろう者は推定約1900人。これに対し、県視聴覚障害者情報センター(鹿児島市)に登録する手話通訳士と手話通訳者は4月1日現在、計105人にとどまる。専門性の高さや低報酬が背景にあり、関係者は「労働環境の改善や若手世代の育成が必要」と指摘する。

 県内の聴覚障害者は2024年度末時点で9485人。一般的にその約2割がろう者とされる。


 県聴覚障害者協会の寿福三男事務局長もその一人。病院や行政とのやりとりで手話通訳のサポートを受ける。「筆談もあるが、長文や専門的な言葉が多いと完全には理解できない時がある」という。「ろう者の権利を守るために手話通訳は不可欠。ろう者の社会進出も進み、需要は高まっている」

 同センターには現在、国が認定する手話通訳士33人と、県が認定する手話通訳者72人が所属する。その半数は60歳以上だ。

 24年度の稼働率は、通訳士約90%に対し、通訳者は約50%。担当者は「通訳以外に本業を持つ人が多いため、主婦らに仕事が集中している」と説明する。

 資格を持つのに活動していない“潜在通訳”を生む要因の一つに、報酬の低さがある。

 派遣される通訳士らの報酬は現在、2時間未満3000円。その後1時間ごとに千円加算される。県は今年4月から基本報酬を千円引き上げたが、現場からは「今の報酬費では、通訳だけで生活が成り立たない」との声が上がる。

 県手話通訳問題研究会の横溝和恵会長(56)は「遠方に出張しても移動時間は報酬の対象外。『福祉はボランティア』という昔ながらの考えから抜け出せていないのでは」と指摘。通訳には高い集中力を要し、体への負担もかかるとして、国全体での報酬の引き上げを求める。

 また、通訳士は高い専門知識や技術が必要で、資格取得のハードルも高い。横溝会長は「大学などで養成できるようになれば、若い世代も資格を取りやすくなるのではないか」と提案する。

 県は、離島向けに手話通訳者のオンライン養成講座などを実施している。県障害者支援室の山本圭一室長は「ろう者の生活に支障がないよう、手話通訳の養成に力を入れていきたい」と話す。

■用語解説 手話通訳 

 手話通訳の資格は、国が認定する「手話通訳士」、都道府県が認定する「手話通訳者」、自治体の養成講座を修了した「手話奉仕員」がある。いずれも国家資格ではないが、手話通訳士は裁判や政見放送などで活動し、高い専門性が求められる。2024年施行の改正障害者差別解消法で、障害のある人への「合理的配慮」が義務付けられ、手話通訳の需要は高まっている。

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